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■ついに連載開始!
永山 自分が読み始めた頃はすでにエロ劇画は下火になってましたけど、自販機で『大快楽』とか宮西計三さんの特集とか買ってました。で、75年、沼礼一さん(※1)が……。
松本 『漫画ポポ』の『秘密捜査官ブラックリスト』シリーズが面白いって。
永山 わかってくれる人がいたと。
松本 やっぱ短編読み切りだけだとダメだと。毎月、読者が買うと連載が載っている。そうならないと定着しないんですよ。
永山 毎月連載していると名前を憶えてもらえる。
松本 そうそう。沼さんは原作者なんで、漫画家をめっけるのがある意味仕事みたいなところかあって、この人とやりたい。で、うちに来て、池袋の海潮社に連れて行かれた。けっこう固い本出している会社で『銀河』とか出してた。他に『月下の一群』『ジャズランド』などがありました。
永山 『月下の一群』は学生の時に買ってましたよ。今で言えばサブカル誌ですね。
松本 まだ漫画はあんまり出してなくて、『長編コミック劇場』(芸文社)の下請けをやっていて、自分とこでは『漫画エロジェニカ』出してた。『長編コミック劇場』の方で沼さん原作の『淫獣謝肉祭』の連載を始めたわけです。これもそんなにエロエロじゃなくて、アクションがある作品でした。
永山 バイオレンスですよねえ。
松本 沼さんは実話雑誌で泥臭い絵の漫画も描いていたから、漫画描くのがいかに大変かってのをイヤというほど味わってきたから漫画家を尊敬している(笑)。漫画が描ける人はなんでもできる。あんなしんどいことがやれるんだから(笑)。
永山 そうですよ(笑)。
松本 とんでもない。なんでもできるわけがない(笑)。漫画しかできない。
永山 俺も漫画と原作と両方やったことあるんですけど、漫画はほんとに絵が好きで、絵を描くことが苦にならない人でないと無理。それに比べたら原作は楽ですよ(笑)。調べたりとか、プロット組み立てたりとか楽しいけど、絵を描くのがしんどい。漫画家は全部1人でやるわけでしょ。シナリオまでなら楽です。コマ割りまでやると大変だけど。
松本 それで、この人は原作に転身した。後に小説も書くようになりましたね。最終的にはサニー出版(※2)の社長になっちゃう。会社は吉祥寺にあります。生涯2回くらい大当たりしてるんですよ。一億円くらい売れた本もあって。ひとつは赤と青の3D眼鏡かけて見る本。あれは周期あるらしくてたまに来るらしい。
永山 ずーっと売れるわけじゃないけど……。
松本 何年かするとまた売れる。
永山 今はもう映画が3Dになってますからね。
松本 漫画はないですね。漫画もそれに合わせてあってもいいようなもんだけど。映像ばっかし。
永山 この時に原稿料が4,500円になった。
松本 そうそう。あの頃は500円、1,000円上がったら大変なことですから。上がるとね、すぐ1年間でいくらになるか計算するの。みんなそれ。中島史雄さんも(笑)。
永山 基本的に労働力は変わらない。
松本 そうですね。基本2,500円くらいがだいぶ続いた。3,000円までが時間かかった。でも、ゆくゆく下がったりするんの(笑)。
永山 えーっ、なんで?
松本 『エロ魂!』でもこれから出てきますけどね。各社に電話して原稿料調べやがった(笑)。今だったら考えられない。
永山 訊く方も訊く方だけど、絶対、教えないですよ。しかし、月に24,000円収入が増えたら随分楽になりますね。今の物価と違うし。
松本 原作物は描きたくないものも描かなきゃなんない。それがめんどくさい。原作物はこれぐらいじゃないかなあ。他にはあんまり描いてない。
永山 俺が谷上俊夫さん(※3)の原作やった時は、バイクどころか空母エンタープライズを出しましたよ(※4)。
松本 そんなことやったんか(爆笑)。
永山 砂漠の真ん中に突き刺さってて、そこに住んでる連中がいる。
松本 それ描く方大変だよ。
永山 大変でしたよ。谷上さん連載2本持ってたし。
松本 思いつくのはいい。でも、それを絵にするのは大変なんだ。
永山 前に先生、アクション描くのに拳銃描くのめんどくさいとか言ってましたよね。
松本 一日に二丁くらいしか描けない。
永山 さいとうプロは拳銃専門の人がいた。あらゆる角度から描ける。
松本 かなり描ける人だったけど結局独立しなかったね。40何年かいる。俺の先輩にあたる人。
永山 ゴルゴ終わらないっすよね。上の方は70代。
松本 かと言って、若手がパッと継げない。
永山 描ける人いないんじゃないですか。
松本 こうなったら、すごい上手い人捕まえて描いてもらう。さいとう先生のお眼鏡に叶うヤツ。「コヤツならゴルゴが描ける!」って。
永山 いっそ全然違う絵でゴルゴをやる。
松本 イメージ出来上がっちゃってるからなあ。小池一夫さんの『新・子連れ狼』は森秀樹が描いてた。あんまり話題になんなかった。絵は上手かったけど。
永山 『鉄腕アトム』も……。
松本 『PLUTO』(※5)?
永山 それもそうですが、『アトム ザ・ビギニング』(※6)。企画原案がゆうきまさみさんで、カサハラテツローさんが作画。全然絵が違う。前日譚で主要登場人物の青春時代を描いてます。
松本 設定を頂いたって感じかな。
永山 『ブラックジャック』はいろんな漫画家がリメイクしてるし(※7)、『巨人の星』は『新約「巨人の星」花形』(※8)てのがありました。
松本 でも、そういうのって続かないなあ。
永山 元ネタが大きすぎるからスピンオフするしかないんだけど。
松本 結局、企画の貧困でしょ。
永山 『リボンの騎士』もリメイク(※9)したけど。今の少女漫画の絵で、アニメ化もしたんだけど全然話題になんなかった。
松本 『おそ松さん』はどうなの?
永山 バカ受けですよね。アニメだからじゃないですか?
■脚註
※1:沼礼一。漫画家、漫画原作者、小説家。漫画原作では作画・川崎三枝子『教師女鹿』(全2巻、芳文社)、小説は『吉祥寺の探偵』(全3巻、サニー出版)などがある。
※2:サニー出版。DVD付きのアダルトビデオ雑誌、熟女雑誌、レディコミ誌、フラダンス雑誌、韓流本、小説、3D本など扱うジャンルは幅広い。
※3:谷上俊夫(1959-2008年)。1980年デビュー。少年漫画、児童漫画で活躍。代表作は『私立味狩り学園』(全11巻、原作・あかねこか、秋田書店。YAHOO! JAPANブックストアで電書発売中)。『砂漠の海賊! キャプテンクッパ』(全2巻、小学館)。
※4:谷上俊夫・作画、福本義裕(永山薫)・原作『パラダイスリング』(1991年、『週刊少年チャンピオン』連載、全19話)
※5:『PLUTO』(全8巻、浦沢直樹)。原著『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」をベースにリメイク。
※6:『アトム ザ・ビギニング』(既刊3巻、ゆうきまさみ・原案、カサハラテツロー・作画、小学館クリエイティブ)。原著『鉄腕アトム』の前日譚。若き日の天馬博士、お茶の水博士が登場。
※7:『ブラック・ジャック』のリメイクは山本賢治『ブラック・ジャック〜黒い医師〜』(全3巻)、アンソロジー『ブラック・ジャックALIVE』(全2巻)、アンソロジー『ブラック・ジャックM』(全2巻)、田口雅之『ブラック・ジャックNEO』(全2巻)、吉富昭仁『ブラック・ジャックB・Jxbj』(全1巻)、アンソロジー『ピノコトリビュート アッチョンブリケ!』(全1巻)、作画・大熊ゆうご、脚本・田畑由秋『ヤング ブラック・ジャック』(既刊11巻)などコミックス化された作品だけでも多数(いずれも秋田書店刊)。
※8:原作・梶原一騎、川崎のぼる、作画・村上よしゆき『新約「巨人の星」花形』(全22巻、講談社)。原著の世界を現代に移し、花形満視点でリメイク。
※9:脚本・高橋ナツコ、作画・花森ピンク『サファイア リボンの騎士』(全4巻、講談社)。舞台を現代に移し、サファイアの子孫が活躍する。