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■猿にフェティシズムはわからない
松本 次、プロジェクトH(笑)。
永山 ナレーション、田口トモロヲ(※1)って。そういえば、前、田口さんのエロ劇画『ノーパンパニック』を見せていただきましたよね。
松本 あれ、えらい値段付いてるみたいね。あれ、どっかに持っていけば復刻できるんじゃないの?
永山 どうですかね。
松本 微妙だよね。超売れっ子の役者ってわけでもないし、知る人ぞ知る……。
永山 名脇役というか。どんな役でもこなす。
松本 三千部くらいなら売れるんじゃないかな。
永山 あの中に『俺たちクリスタル族』ってあったじゃないですか。時代背景がわかりやすい(笑)。ファンドやって資金集めれば復刊できるかも。
松本 あれって成功するものなの?
永山 刷るだけだったら50万もあれば出来るじゃないですか。
松本 そんなに集まるの? 森園みるくさんも去年やってたみたいだけど(※2)
永山 調べてみます。アニメとかはけっこうありますね。エンドロールに自分の名前入れられるとか(※3)。
松本 なるほど。
永山 10万とか出すと名前がでっかくなるとか。それで『プロジェクトH』でフェティシズムは猿にはわからない(笑)。
松本 ちょうど『漫画ダイナマイト』にレオタード物を描いたんですね。それが未だにレオタード、タイツ描いてるから原点ですね。フェティッシュなものってそんなになかったし、今でもそんなにないですね。昔に比べればありますけど。
永山 当時なかったですからね。セーラー服くらいですか。
松本 何気に描いたんだけど、結構画期的だった。そういうえばもっと前に実話雑誌で「バレリーナ」エロも描いたのを思い出した!
昔は誰も描いてないなあ。エプロンフェチもないし、パンストフェチだっていなかったし、メイド描く人もいなかった。看護婦はちょっといたかな。
永山 あとは、せいぜい婦人警官、スチュワーデス……。
松本 スッチーは『闇の淫虐師』でやったけど、他ではあんまり見てない。チアガールもあんまり見ない。
永山 バトントワラーも先生やってましたね。コスチューム系は相当やってますよね。
松本 バレリーナ物は誰か他の人がやったら是非読みたかったのに誰もやってくんない。
永山 ひょっとして1人もいないんじゃないか(笑)。
松本 村祖俊一さんが描いてた(笑)。でもあれは高取英さんの趣味だと思うな。編集者として描かせたんじゃないか。あの人、歌劇団やバレリーナがけっこう好きだから。で、結局フェティシズムは人間が編み出した平和主義だと思うんだけれどそれはまたの機会に。いまや同人誌などで自分の好きな様々なフェチを描いて各自それを本にして買ってくれる人がいるなんて……、昔は考えられないことです! その点ではいい時代になりました。まぁ滅茶苦茶叩かれてるけれど……。
永山 それで『漫画ダイナマイト』は現金払い。
松本 何故だったんだろうね。みんな現金もらえて喜んでたけど(笑)。小切手でも銀行行けばカネになるんだけど、現金でもらうとなんか労働した気になった。なんか働いたぁ。作戦だったのかなあ。原稿料安いから現金で渡したら喜ぶだろうって。バカですねえ(笑)。
永山 僕は小切手でしたね。
松本 編集の小島さんは前に日晴社にいた人で、そこにいた古内さんって編集が、後に辰巳に移るんだけど、「なんで、みんな小島さんところで仕事したがるんだ?」って不思議がってた。現金払いの話聞いて「これか!」(笑)。
永山 次に秋山満さんが登場。『COMの青春』(※4)を書いた編集者ですね。
松本 自分のことは良く書いてある(笑)。
永山 そりゃそうですよ(笑)。
松本 読んだやつはみんな言うんだ「秋山さん、据え膳喰わないって何これ」って。カッコ良く書きすぎたよ。
永山 秋山さんとここで出会う出会うのは、ダイナマイトの編集だったんですか?
松本 いやライターやってたのかな? 小説かな? 当時は実話系の雑誌で、ちょっとエッチな文章書いたり。
永山 秋山さん、むちゃくちゃなこと言ってますよ「給料なんかもらったことない」って。
松本 そうそう(笑)。んなバカな。
永山 と言う話を聞いた(笑)。
松本 「宮谷一彦さん……、その名前は懐かしいけど、いい想い出は何ひとつない」って(笑)。こぼしてたなあ。宮谷さんも時代の子だからなあ。編集者なんかと地方に行って、ファンとの交流っていうかイベントやってたらしいんだけど、そういう時でも政治的な話ばっかりして、みんなシーンとしてる。なんで、そんな話するんだって怒って口もきかなかったけど……、後で謝りに来て「すんません、どーも」って一応あとでフォローする人ではあったとか。浅川満寛さん(※5)にも聞いたけど、変な人らしいよ。癖のある。エピソード幾つか聞いたけど、それでも憎めないって。あの頃ね、崇拝してる漫画家だった。
永山 自分も『COM』読んでたんで、宮谷さんが出てきた時は衝撃でした。
松本 短編が多くて、長編はあんまりない。
永山 長編は第一部で終わってたり。
松本 代表作は『ライク・ア・ローリング・ストーン』ってことになるのかな。
「エロ魂!」の第1回の蒸気機関車の場面は「けんかえれじい」と「ライク・ア・ローリング・ストーン」をオマージュで合体させてます。
永山 幻の作品。
松本 電書化(※6)されてますけど、電書で読もうとは思わない。一応、切り抜き全部持ってますけど。
永山 『COM』の切り抜き、父母の遺品整理に実家帰ったら全部捨てられてた(笑)。ぐらこんとか、竹宮惠子さんのデビューとか貴重な資料なのに。それで、秋山さんに話を戻すと、その後は?
松本 秋山プロダクションを作って、『劇画野郎』『ホリディ・コミック』を編集していたんですよ。一時期ミリオンのドル箱で、秋山プロがミリオンを支えているような時期がありました。漫画も15万部くらい売れてましたから。ウハウハですよ。『美蝶』(※7)の初期の頃、けっこう売れたらしい。美味しい時代もあったんですよ。
永山 美味しい時代あっただけいいじゃないですか。俺なんか年収1,000万円超えたの一回だけですよ。
松本 バブルの頃?
永山 今から思えばバブルのおこぼれだったんでしょうね。1,000万超えた、わーいと思ってたら消費税払わなきゃならないわ、保険の負担も増えるわ、次の年が厳しかったですね。
松本 税務署にいじめられていた時代が懐かしい(笑)。今は相手にもしてくれない。もっとガンガン払って国の財政を豊かにしてやりたい……などと心にもないことをたまに言ってみたりして……(笑)。
■脚註
※1:田口トモロヲ。1957年生まれ。俳優、ナレーター、バンド「ガガーリン」「ばちかぶり」ボーカル、元エロ劇画家。無名時代にはピンク映画、AVに多数出演。89年の主演ドラマ『シャボン玉が消えた日』(日本テレビ)、主演映画『鉄男』(監督・塚本晋也)で注目を集め、90年代以降多数のドラマ、映画に出演。『プロジェクトX』(2000〜2005年、NHK)のナレーションが有名で、「男たちは泣いた」などのセリフがよくネタに使われる。監督作品に『アイデン&ティティ』(2004年)、『色即ぜねれいしょん』(2009年)、『ピース オブ ケイク』(2015年)がある。
※2:「森園みるく 愛欲の世界残酷犯罪シリーズ「浴槽の花嫁」書き下ろしプロジェクト」
※3:11月12日公開予定の、こうの史代原作、片渕須直監督の『この世界の片隅に』はクラウドファンディング「Makuake」で約4000万円の支援を集めた。アニメのファンドとしては最も成功した例だろう。ミーティングへの参加、こうの史代の描き下ろしハガキ、エンドロールでの名前など出資金のコースによって様々な特典が用意されていた。
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※4:『COMの青春—知られざる手塚治虫』(1990年、平凡社)
※5:浅川満寛。元『まんだらけ』『アックス』の編集者。貸本劇画の研究家。ペンネーム、斧田小。
※7:『女教師・美蝶』のシリーズは『女教師 美蝶・ノスフェラトゥ編』『ダーティ・松本傑作選 6 女教師・美蝶』(1990年)、『女教師・美蝶 ダンシングクィーン編』(1992年)、『危険な女教師・美蝶』(1995年)、『女教師・美蝶 放課後編』(2000年)などがある(以上ミリオン出版)。PDF版『女教師・美蝶 (上)』はマンガ図書館Zに収録されている。