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1/4 ■挿絵画家の悲劇
2/4 ■挿絵画家の悲劇
3/4 ■花輪和一氏とすれ違う
4/4 ■アルバイト生活に逆戻り
永山 藤尾さんが亡くなる話は次回に続くんですけど、先生の方は辞めたあとどうしてたんですか?
松本 どうもそのお仲間に入るのは、「独立して一人前のマンガ家になっていく」という流れと違い、結局他の人のお手伝い……という意味ではさいとうプロと同じなので、繰り返すよりまだ独立は2年後……あたりのつもりだったのに流れで早めに独立してマンガ家への道に旅立つわけですが……なかなかまだ厳しい道程です。
永山 藤尾さんが『人間革命』(※18)の絵を描いたって話は?(原著p100)。
松本 あの映画、丹波哲郎が主演じゃないかな。観てないんだけど(笑)。「池田大作の残酷過ぎるの一言で没になった」ホントに描いたかどうかわかんない。
永山 話がどんどん怪しくなってくるんだ(笑)。
松本 舛田利雄監督に、藤尾さんゴツイ顔してるから「悪役に使えるなあ」なんて言ってくれたって。
永山 で、先生はその頃、貸した金は返ってくると思ってた(笑)。
松本 純真だなあ(笑)。
永山 俺も30年前に友達に5万貸したけどまだ返ってこないっすよ(笑)。借りた金は忘れるけど貸した金は忘れられない(笑)。
松本 30年前の5万はでかいなあ。
永山 半月は食える。今の10万くらいはしますよ。今、10万貸せって言われても無理(笑)。
松本 それじゃカンパもできない。
永山 このページ、青春群像ですね(原著p99-101)。
松本 今でも描いている人は……いませんね。
永山 先生だけ。
松本 さいとうプロでサブチーフやってた人たちはやってますけど。
永山 さいとうプロに残った人はそのまま。
松本 半年先輩の伊賀君というのもシップに行ったし、彼と同期だった千葉氏は今も残っていて、まぁ永久就職ですね。
永山 先生はバイトやりながら新星社の実話雑誌だけじゃ食えなくて、他社に持ち込みで、何本か掲載されるようになったと。『漫画ボン』(※19)の名前が上がってますね。少年画報社の。
松本 こないだ誰か言ってたけど、少年画報社行くと組合闘争やってたって、赤旗が立ってたって(笑)。それはさておき、今回は日晴社(原著p102)の話。小さい会社ですけどね。まとまったページ、30枚くれたりね。
永山 少年画報社も長めですよね。『汚れたジャングル』とか。
↑「汚れたジャングル」のトビラ。本編で言及されている同作と初期作品「ハイエナ・ジャック」「グッバイ・ブラザー」「黄金の指」「ロング・ロング・グッドバイ」「ザ・セールスマン」は、私家版CD-R『血と肉体 Blood&body』に収録。ダーティ・マーケットで通販可能。
松本 少年画報社も25ページとか長めでしたけど、日晴社の方が長めのをくれた。
永山 『汚れたジャングル』はドン・シーゲルの『殺人者たち』(※20)に触発されたと。
松本 主演はリー・マーヴィンですね。
永山 後に大統領になるレーガンが殺される役。あれカッコ良かったですね。随分後に観たんですけど。
松本 カッコ良かったすね。でかいサイレンサー付けてね。
永山 モノクロのイメージあるんですけど。
松本 カラーです。モノクロの『殺人者』は、バート・ランカスター主演のやつです。
永山 リー・マーヴィンの観てるんですけど、拾った白黒テレビで観たのかなあ(笑)。
松本 どっちもヘミングウエイ原作です。この頃はわりと活劇っぽいものを描いてました。元々活劇志向だったんだけど、だんだん需要がなくなっていった。
永山 日晴社の『ハイエナ・ジャック』は?
松本 ちょっとアメコミ風のやつ。
永山 本になったんですか?
松本 単行本に入れてます。あんまりエロはないです。日晴社でまだ活劇が描けた。
永山 ちょっと調子こいてますよね。持ち込みの若い子を見て「あれは昨日までの俺だ」って(笑)(原著p103)。
松本 実際に持ち込みにきてた子がいたんだけど、俺がきたんで早々に追い返されて、帰っていく彼を見て、自分も持ち込みに行った時はあんな感じですげなく追い返されて……昨日までの自分を見るみたいで身につまされました。
松本 というか雑誌に載るスペースは決まっているわけでその空間に潜り込めるかどうかでしょ。野球選手でもその年にチームに10人入ってきたら10人出されるわけで…雑誌が増えればスペースが増えますが同じなら譲り合っていたら永遠に自分の作品は載りません。その時に持込に来た彼も何年後かにどこかに載ったかも知れないし、自分もまたページ外に去るかもという椅子取りゲームみたいなもので自分の作品が他の人より面白いと思わないやつは来ちゃいけない世界です。でも「自分の作品が他の人より面白い」という根拠は何にもないんですけどね。そういう根拠のない自信は絶対必要です。そんな感じで自分の場所を勝ち取って描いて描いて……気がつくと貯金が20万できた♪ たいした額じゃないけれど。
永山 当時の20万円って大きいですよ。
松本 よし!ガンガン行くぞ!となったのに小さな出版社だった日晴社はどっかんと潰れました……。なかなか上手く波に乗れず、このあとまだまだエロマンガの大波が来るまで苦闘の日々が続くわけです。
永山 この見開き(原著p104-105)は解説入れないと若い人はわかんないでしょ。
松本 『仁義なき戦い』(※21)、『あしたのジョー』(※22)くらいはわかるでしょ。
永山 『ジャッカルの日』(※23)は憶えてるんだ。『荒野のストレンジャー』(※24)は憶えてないなあ。
松本 クリント・イーストウッドの幽霊ウエスタン。
永山 『110番街交差点』(※25)
松本 これは渋いでしょ。
永山 『激突!』(※26)はスピルバーグが好きな人なら知ってる。
松本 デビュー作。
永山 一人称視点じゃないけど、ほぼ一人の視点。狙われる側をやったのが……。
松本 デニス・ウィーバー。後にTVシリーズ『警部マクロード』(※27)の主役。
永山 全然イメージ違うんですよね。
松本 『警部マクロード』観てましたか。
永山 見てましたよ。
松本 声が宍戸錠ね。『刑事コロンボ』の後番組。
永山 『マンハッタン無宿』のテレビ版続編みたいでしたね。
松本 あ、そうだね。
永山 で、映画版続編みたいなのが『ダーティハリー』というイメージで憶えています。
松本 実際にそうじゃないですか。西部劇のヒーローが街にやってきて暴れるという。
永山 『マンハッタン無宿』かっこよかったですね。最後に、いつも捕まえてるインディアン捕まえて、映画の最初の方だと人間扱いしてなかったのが、タバコやったりして人間扱いするじゃないですか。
松本 ありましたね(笑)。
永山 あそこが、かっこいいなあと。で、山口百恵デビュー、ディスカバージャパン、『堕天使ロック』『助っ人稼業』ときて1974年。
松本 貯金が20万円できた……しかし、日晴社が潰れた(笑)。というところで原著第5章が終了。続きいっちゃいますか?
永山 原稿では分けますけど、話としては原著の第5章と第6章はそのまま続いているので、いっちゃいましょう。
■脚註
※18:映画『人間革命』(1973年)。監督:舛田利雄、脚本:橋本忍、原作:池田大作、音楽、伊福部昭。主人公である創価学会第2代会長・戸田城聖役を丹波哲郎が演じた。
※19:『漫画ボン』(1969年〜)。現在は子会社の大都社から発行中。
※20:映画『殺人者たち』(1964年)。バート・ランカスター主演のロバート・シオドマク版は1946年公開。他になんとあのタルコフスキー監督版(1956年)もある。
※21:『仁義なき戦い』(1973年)。監督:深作欣二、原作:飯干晃一、出演:菅原文太、松方弘樹、田中邦衛、金子信雄、梅宮辰夫など。戦後の広島を舞台とするヤクザの抗争をドキュメントタッチで描く傑作。
※22:『あしたのジョー』(1968〜1973年)。原作:高森朝雄(梶原一騎)、漫画:ちばてつや。
※23:『ジャッカルの日』(1973年)。監督:フレッド・ジンネマン、原作:フレデリック・フォーサイス、主演:エドワード・フォックス。アルジェリア独立を阻もうとするテロ組織OASに雇われたスナイパー、ジャッカルがドゴール大統領を狙う。
※24:『荒野のストレンジャー』(1973年)。監督・主演:クリント・イーストウッド。イーストウッドの監督第2作。西部の町に現れた謎のガンマンが町の用心棒になるが……。
※25:『110番街交差点』(1972年)。監督:バリー・シアー、主演:アンソニー・クィン。ハーレムを舞台にした、現金強奪犯とマフィア、黒人ギャング団の血で血を洗う抗争を描く。
※26:『激突!』(1971年、日本公開は1973年)。スピルバーグ監督によるテレビ映画。海外では劇場公開され、スピルバーグの出世作となる。原作はリチャード・マシスン。運転中にトレーラーを追い抜いたばかりに執拗に追われ、命を狙われるハメに陥ったセールスマンの恐怖を描く。
※27:『警部マクロード』は1970〜1977年にかけてアメリカで放送されたテレビドラマシリーズ。日本でもテレビ朝日(1974年)、NHK(1975〜1977年)で放送された。ニューヨーク市警に研修にきた保安官補が騒動を巻き起こしつつ事件を解決する。対談で永山はイーストウッド主演の『マンハッタン無宿』(1968年)に触れているが、それもそのはず、実際に同映画の続編として企画され、イーストウッド主演も予定されていた。しかし、それより先に『ダーティハリー』(1971年)の主演が決定していたため、デニス・ウィーバーにお鉢が回ってきたという経緯がある。
※28:ディスカバージャパンは1970年に日本国有鉄道(国鉄。現JR)が行った個人旅行拡大キャンペーン。
■補註:その他本作中に言及のある作品
『ゲッタウェイ』(1972年、日本公開1973年)。監督:サム・ペキンパー、脚本:ウォルター・ヒル、主演:スティーブ・マックイーン、アリ・マッグロー。銀行強盗夫婦の逃避行を描くバイオレンス・アクション。
『殺人者にラブソングを』(1973年)。監督・主演:ロバート・カルプ、脚本:ウォルター・ヒル、出演:ビル・コスビー。私立探偵コンビが女の行方を追うアクションもの。ウォルター・ヒルの脚本デビュー作。画像リンクは輸入盤。
『ビッグ・ガン』(1973年)。監督:ドゥッチョ・テッサリ、出演:アラン・ドロン。組織に妻子を殺害された殺し屋の復讐劇。
『夕陽の群盗』(1973年)。監督:ロバート・ベントン、出演:ジェフ・ブリッジス、バリー・ブラウンなど。
『神田川』1973年にリリースされた、南こうせつとかぐや姫の楽曲。70年代青春フォークの名曲。1974年に映画化された。
金大中事件(1973年)。1971年、韓国大統領選挙に立候補した新民党の金大中(キム・デジュン)は僅差で当時現職だった朴正煕(パク・チョンヒ)に敗れた。しかし朴大統領は民主化勢力の拡大に危機感を抱き、KCIA(韓国中央情報局)は金大中の暗殺を計画。交通事故を装って金大中の自動車に大型トラックを突っ込ませた。このテロにより、三名が死亡したが、金大中は負傷。1972年、朴大統領がクーデタを敢行。この時、海外にいた金大中は日本に亡命する。民主運動家として独裁政権を批判する金大中は世界的な有名人となる。1973年、KCIAは金大中を極秘裏にソウルに拉致する。何故、暗殺ではなく拉致で終わったのかは諸説がある。
ハイセイコーは1970年代を代表する競走馬。1972年、大井競馬場デビュー。1973年の日本ダービーで3着となるまで10連勝。その後も人気は衰えず、1974年に引退。種牡馬として1997年に引退するまでカツラノハイセイコなど多数の競走馬の「父」となる。2000年に死亡。
石油(オイル)ショック。ここでは1973年の第一次オイルショック。第四次中東戦争の影響で産油国が原油価格を引き上げ、さらにイスラエル支持国への石油禁輸を決定。石油価格高騰により物価が急上昇し、日本経済も大打撃を受けた。