特別連載 ダーティ・松本×永山薫 エロ魂!と我が棲春の日々(8)

電脳Mavo版『エロ魂!』第8回(原著第7章)

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1/3■初連載直前、税務署員も同情する極貧生活
2/3■伊東元気の一言が漫画家人生を変えた!?
3/3■ホラー漫画専門誌に持ち込んで玉砕!

■初連載直前、税務署員も同情する極貧生活

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松本 第8回ですね。初連載が持てた嬉しき回です。
永山 次回、大ネタになるんで、そこまでやっちゃうとしんどいので、今回は怒濤の75年のプロローグ編ということでお願いします。
松本 次回がエロ漫画開眼する(笑)。では、その前夜ということで始めましょう。今回、もう75年に入ってることは入ってるんですが……。
永山 最初から仕事が入ってきて、バリバリ描いてたってわけでもないんですね。
松本 そうだね。板橋の都営住宅に引っ越して。親父がね、身障者っつーか、肺が片っぽなくてね。
永山 結核ですか?
松本 そうですね。結核で。両方悪かったんだけど、両方取っちゃうと当然息ができないわけで、まだましな片っぽだけ残して文字通り片肺飛行。階段昇るのが辛そうでね、横断歩道がない場所で歩道橋渡る時なんか登る前に大決心して「よしっ」って決心して登り始めるようなもので、そういう人は都営住宅に入れる確率が5割くらい。都営は障害のある人、裕福じゃない人が優先。一階は車椅子の人とかね。認定1級の身障者だと抽選で5割の確率で入れるんですよ(当時)。もちろん所得の低い人のみですが当然その低さは自信がありました!って自慢にはなりませんが……。のちに収入が増えて規定額を超えたら超えた分に賃料が上積みされていくわけです。それでも他のアパートや団地より安かったような?
永山 家賃も安い?
松本 安い。2DKで、当時、1万円くらいです。
永山 先生の年収が33万円、平均月収が2万7500円ですよ(原著p126)。
松本 どうやって暮らしたんだ(笑)。20万円ほど貯金があったので、それを取り崩して生活してました(笑)。
永山 調べてみたんですけど、当時のサラリーマンの平均月収が20万9千299円。
松本 えーっ! 当時20万。それはないでしょう。
永山 ボーナスとか入れてだと思うんですが、俺も高すぎだと思いますよ。俺が東京出てきて、78年頃、月収12万でしたらから。
松本 15、6万ってとこじゃないですか?(※1)。
永山 大手だったらわかんないけですけど
松本 年収33万円で、税務署員に同情される。
永山 逆さに振っても税金が取れない。
松本 非課税ですね。
永山 源泉徴収税が全額還付される。
松本 そうですね(笑)。でも、徴収されてる額が大したことない(笑)。
永山 でも3万円返ってくるじゃないですか。当時の3万円大きいですよ。
松本 大きいですよ(※2)。
永山 月収3万ないんだもん(笑)
松本 いやあ、いよいよピンチの時に……新連載の話が……と言いたいところだけど……まだ、このあとピンチが続く(笑)。
永山 苦戦しながら持ち込みを続ける。前回、債権者会議で出会った元さいとうプロの津田さんが再度登場しますね。
松本 そうそう。実話雑誌専門の新星社、後の平和出版(※3)に津田くんを紹介したらカンフー漫画描いて笑われた(原著p127)。『燃えよドラゴン!』(※4)が彼を直撃したみたいで当時腐るほど輸入されたカンフー映画をいっぱい見たようです。ブルース・リャン(※5)とか倉田保昭(※6)とか柱の上で戦ったり体術が凄いんです!

永山 津田さんとは仲良かったんですか。
松本 今でも時々会いますよ。まだ生きてますし。
永山 後に編集者になるんですか?
松本 そうそう。後に。『漫画ダイナマイト』(※7)の編集もやったし。おかしかったのは塩山芳昭さんの漫画日記(※8)。あれに当時の編集者座談会みたいなのがあってそれに彼が写真つきで出ていた。塩山さん、後で、その編集者が以前、那珂川尚(※9)という名前でエロマンガを描いていた男と聞きびっくり!?(※10)。後に津田君に会ったとき「十年近くのマンガ家時代は無駄だった」と言うくらいで塩山氏と会ったときもマンガ家のころのことは語らなかったのかも?
永山 塩山さん昔のこと詳しいはずなのに(笑)。ところで、塩山さん、引退説が流れてきたんだけど(笑)。
松本 まだやってますよ(笑)。まあ、もう仕事減ってるから行く行くは(笑)。でもまだしぶとくやってますよ。あと5年で年金。
永山 俺よりひとつ上だから4年ですね(笑)。実は俺よりずっと上だと思ってたんですよ。俺なんか塩山さんに比べたら駆け出しのヒヨッコだと思ってたら、なんだ一個しか違わねえのか。年長者だと思って敬意を払ったのに、あのクソオヤジ(笑)。
松本 さいとうプロ時代に会った山本又一朗(※11)。俺が20くらいで入った時、30以上だと思ってたら、ひとつしか違わない(笑)。その割に態度でかかったな。あとで知ってムカッと来てそれ以来「クソ又」と呼んでます。
永山 プロデューサーになるような人は態度でかくないとイケナイ(笑)。それで話戻しますけど津田さんのカンフー漫画ってどんなんだったんですか?

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松本 見てない(笑)。エッチな場面もあるらしいけど最後のカンフーシーンを描きたかったんですね(笑)。『燃えよドラゴン』封切りの頃ですよ。観に行ってね、あまりのすごさに2〜3回観て帰ったと。どうしてもカンフーの場面が描きたかった。そういう人は、当時多かったんじゃないですかね。
永山 多かったですよ。映画館から出てくる時、ブルース・リーみたいな歩き方になってたりとか。俺なんかも名画座で『網走番外地』(※12)観て出てくると、歩き方が健さんになってたりとか(笑)。

松本 健さん、こないだ亡くなったけど、同級生と文芸座のオールナイトとか一緒に行きましたねえ。けっこうショックだったようで「あの頃が一番楽しかったねえ」ってしみじみ言ってました。 
永山 菅原文太も亡くなっちゃったんですねえ。
松本 ところで70年代にブルース・リー映画に影響受けた漫画ってあるのかなあ? 『北斗の拳』(※13)は80年代でしょ。75年の頃は描ける人いなかったのかな。
永山 う〜ん。『鉄拳チンミ』(※14)とか『拳児』(※15)とか、ずっと後ですよね。

松本 青年誌でも、あんまり見たおぼえないなあ。誰も知らないんじゃない? カンフーって。空手はみんな知ってるけど。そうだ『空手バカ一代』(※16)の時代だった?
永山 カンフーは独特ですからね。
松本 漫画界ってすぐ採り入れるんだけど。
永山 先生は採り入れなかったんですか?
松本 いや、ダメですね。ああいう動き。ああいうのは素養がいるんですね。空手やるようになったのはだいぶあとになってからだし。型もなんも知らないし。ただ殴るだけ。飯田耕一郎さん(※17)は、道場通ってるって。
永山 太極拳じゃないですか? 夏目房之介さん(※18)が太極拳やってますね。なんか、会うたびに驚くんですが、血色がいいっすよ。
松本 太極拳はいいんじゃないですか、中国じゃみんなやってるみたいだし。身体がほぐれて血行がよくなる。長生きの秘訣。
永山 先生はやんないんですか? 空手は最近。
松本 昔はアシスタントの鶴田洋久クン(※19)と一緒に道場に通いましたが、彼はそのときの体験から『なつきクライシス』を描いたので役に立ったかも。こちらは最近はやってないですね。うちの先生は武闘派ですからね。あれについていったらどうにかなっちゃいますから。実戦空手。組み手も寸止めじゃないですから。随分身体傷めましたよ。このままじゃ漫画描けなくなる(笑)。顔面と金的以外は当てていい。
永山 ヤバイっすよ、それ。
松本 師匠がそういう人ですから。腕を上げるためにヤクザに喧嘩を売りに行った。よく生きてるな。そういう無謀な人なんですよ。
永山 ヤクザはシャレになんないですよ(笑)。手段選ばないし、メンツにこだわるし。
松本 しかし、カンフーに関する漫画の話題が何も出てきませんねー(笑)。

脚註
※1:さすがに後日、信頼性の高いデータを調べたところ大卒初任給91,272円、サラリーマンの諸手当、ボーナスを含む平均月収171,150円。

※2:消費者物価指数が2倍弱になっているので今だと約6万円。

※3:1960年設立。『まんが笑がっこう(→SHOW GAKKO)』などのエロ漫画誌、パチスロ雑誌などを出版。2005年に倒産。

※4:日本公開1973年。ロバート・クローズ監督、ブルース・リー(李小龍)主演のカンフー映画。大ブームとなる。

※5:梁小龍。武術師範、俳優。1948年生まれ。代表作『帰ってきたドラゴン』(1973年、ウー・スーユエン監督)他多数。

※6:1946年生まれ。俳優。空手七段。1971年香港映画デビュー。悪役スターとなり『帰ってきたドラゴン』で凱旋帰国。和製カンフー活劇映画などを経てTBS系の刑事ドラマ『Gメン’75』にレギュラー出演し、一時干されるが、ジャッキー・チェンの助力で香港映画界に復帰。出演作品多数。最近の作品に『ラスト・シャンハイ』(2012年、バリー・ウォン監督)がある。

※7:辰巳出版の長寿雑誌だったが2011年12月号で休刊。

※8:「日刊漫画屋無駄話」

※9:『漫画パイオニア』(辰巳出版)、『漫画バンプ』(東京三世社)、『漫画グランプリ』(蒼竜社)などに描いていた。

※10:塩山芳明のBBSの記述参照

※11:1947年生まれ。映画プロデューサー。代表作は山ほどあるのでWikipedia参照。

※12:1965年公開、石井輝男監督作品。

※13:1983〜1988年、原哲夫、原作・武論尊、集英社。

※14:1983〜1997年、前川たけし、講談社。

※15:1988〜1992年、藤原芳秀、原作・松田隆智、小学館。

※16:1971〜1977年、つのだじろう、影丸譲也、原作・梶原一騎。

※17:元『COM』編集者、漫画評論家、劇画家。『美宏の季節』(1982年、けいせい出版)、『邪学者 姫野命シリーズ』(全5巻、1985年、白夜書房)、『麒麟伝』(1986年、徳間書店)、『冬の春売り』(1986年、東京三世社)など多数。

※18:漫画コラムニスト、『マンガの居場所』(2002年、実業之日本社)、『デキゴトロジーイラストレイテッド』(全2巻、1983〜1984年)。

※19:1934年生まれ。漫画家。代表作は『なつきクライシス』(全18巻、1990〜1997年、集英社)。1985〜1988年にかけてダー松先生のアシスタントを勤める。



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