特別連載 ダーティ・松本×永山薫 エロ魂!と我が棲春の日々(8)

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■伊東元気の一言が漫画家人生を変えた!?

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松本 次に行きましょう。伊東元気さんの漫画ってありましたか?
永山 探したけどないんですよ。伊東元でも探したんですけど。資料も見つからない。
松本 4コマなんだけど。
永山 単行本になってない昔の4コマは難しいですね。
松本 あれは残らないよね。
永山 第三次4コマ漫画ブーム(※20)以降だと単行本にもなって残りやすいんですが。
松本 当時の雑誌を手に入れたら入ってるかもしれない。エロ漫画誌にも実話誌にも必ず2〜4ページ入ってたから、それを10社くらいかけもちして生計を成り立たせている4コマ漫画家が大勢いた。それで、まだやってる人も。かまちよしろうさん(※21)とか知ってます? この人は谷岡ヤスジさんの弟子で、今は地方の新聞の4コマを描いているみたいで。
永山 地方新聞とか業界紙とか。
松本 そうそう。4コマ漫画は歴史に埋もれてますね。米澤嘉博さんでもわからない。
永山 復刻でもされないかぎり無理ですね。
松本 まとまってないからね。そういう意味ではレディースコミックもそうですね。単行本が出なかったから。きちんと残ってないから、それについて書く人もいない。
永山 先生もレディコミ描かれてますけど、それはまとめられましたか?
松本 いや、エッチシーン描き足したりして、エロ漫画の単行本に入れました。
永山 Jr.Sam(※22)は? レディコミでしたよね。
松本 いや、あれは美少女系ですよ。

永山 話を伊東元気さんに戻しますが「毎月100ページ描くんだ」と言われたと。
松本 そうそう、それが人生の指針みたいになってる。それまでは注文がないと描かない。でも、それが当たり前ですよねー。「それじゃダメだ」と。伊東元気さんはそれを実践してたみたいです。描いていれば、それがよほど時事的な内容じゃない限り、どこかで使える。

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永山 以前のインタビューでも伊東元気さんのことをおっしゃられて、非常に感銘受けたんですね。先生はそれ以来、「朝起きて歯を磨くように、漫画を毎日描く習慣を身に付けた」って。漫画家でそういう人は珍しいんだけど、職人ではいそうですよね。茶碗焼いて売れるの待ってるとか。有名な人だったら注文で埋まってるだろうけど。
松本 作らないとショーウィンドウに並べられない(笑)。今はネットで展示する手もありますね。ありますよ〜んって(笑)。それで買う人いるのかな? 無料で公開している人もいますね。あれがショーウィンドウの代わりになるのかな? あれで売れた人います?
永山 けっこういますよ。プロでも描きたい作品を描いてKindleでセルフパブリッシングして、それが紙の本になるケースもありますし、出版界を全く知らない人がネットで発表したら注目されて、コミックスにという実例もあります。ただ業界の仕組み知らない人が、コミックス出ました。印税出ました。そこまではいいんだけど「すみません。原稿料貰ってないんですけど」って言い始めている。
松本 原稿料的な名前がつくものが欲しいのかな? 原稿料貰って初めてプロになったって実感が?
永山 単純にお金の問題だと思いますよ。素人の人の発想だと、まず原稿料があって、本になって印税が発生する。だから原稿料貰えないと損した感覚になる。
松本 描き下ろしと同じですね。描き下ろしでも通常は原稿料出ませんから。
永山 連載が打ち切りになって、ちゃんと完結してないって漫画沢山あるじゃないですか。その完結編を一冊作りたいって別の出版社から相談を受けたりもするんですが、作家さんにその話をすると、困っちゃうんですね。アシスタント何人も使っている作家さんだと、原稿料で人件費回してたりするから、描き下ろし印税だけだと無理だったりするんですね。
松本 人一杯使ってるとなあ。
永山 原稿料相当のものを貰わないと続きが描けない。
松本 でも出ないよりは出た方がいいでしょ。
永山 それも原稿が既にあればですね。
松本 昔みたいに万全の世界じゃなくなっちゃったから、それは事故と思って、それも含めて漫画業みたいになっちゃったからなあ。漫画に限らない。活字もそうかもしれない。小説の方は書くと約束してカネ貰う人もいるみたいだけど。
永山 アメリカではけっこうありますね。アドバンス契約。
松本 映画とかでよく観ますね。出版社と話つける中間業者、出版エージェント。
永山 エージェントが値段つり上げたりしますね。企画書だけあって、それが何百万ドル。
松本 日本ではあまりないですね。単価がたいしたことないし(笑)。中間で抜くほどもない。
永山 特に漫画は(笑)。ジャンプとかマガジンの巻頭飾るような作家だったら億単位のカネが動くけど。
松本 エロ漫画の世界だと(笑)。
永山 初版部数1万切ってますから。最近だと出ただけ儲けみたいな感じになってますから。昔はマンガの編プロとかもやっていけたけど、今は厳しいですね。中抜きできるほど貰えない(笑)。
松本 成立しないのかね(笑)。いい話ないなあ。やっとエロマンガ創世記の話を始めたのにエロマンガってもう終わってるじゃないか(笑)。それ言っちゃおしまいだ。お話はこれから希望を持って走り始めるのに。こんな話はカットしましょうね(笑)。

脚註
※20:いしいひさいち、植田まさしの活躍によって火がついた70年代末から80年代の4コマ漫画誌創刊ラッシュ。ちなみに第一次ブームは大正時代の新聞4コマ漫画ブーム。第二次は戦後の『サザエさん』に代表される、やはり新聞4コマ漫画ブーム。

※21:1949年生まれ。早稲田大学漫研出身。鎌地ヨシロウ、かまちヨシロウ名義も使っていた。『ザ・まねき猫』(全2巻、1982年、立風書房)など単行本多数。現在は『ゴンちゃん』を(静岡新聞・山梨日日新聞・秋田魁新報・岐阜新聞・日本海新聞・大阪日日新聞・北日本新聞等の地方新聞に連載中。

※22:ダー松先生の別名義。『昼下がりの少女』(1997年、ティーツー出版)。


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