特別連載 ダーティ・松本×永山薫 エロ魂!と我が棲春の日々(9)

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■秘密捜査官ブラックリスト誕生前夜
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永山 次に前回登場した『秘密捜査官ブラックリスト(屠殺人シリーズ)』の誕生秘話が始まります。前回登場した明文社の『劇画ポポ』で連載しようと大須賀さんと打ち合わせしているところからですが、大須賀さんってダンディな方ですねー。
松本 けっこうお年寄りです(笑)。当時の俺から見るとお年寄りだけど、実際は40代くらいだったかなあ。
永山 カッコイイおじさんに描かれてますけど。
松本 たまたまそういう絵になってる(笑)。
永山 たまたまですか(笑)。一番下のコマに美濃部都知事(※1)再選と長嶋巨人のニュースがかぶさる。調べてみたんですがジョンソン(※2)は1975年に来日して4月22日に初出場。長嶋巨人一年目。散々な成績だったんで「ジョン損」と言われた。巨人は「ソン」がつくとあんまりよくないですね。トマソン(※3)とか(笑)。

ニュース

松本 たまたま後楽園球場に見に行ったときに1回裏にジョンソンがレフトスタンド席の間近にホームランを叩き込み、今日は乱打戦だ!と喜んだら得点はその1点のみで巨人が勝ちましたが1-0の盛り上がらない試合でした。
永山 ホームラン打ってるのに盛り上がらない(笑)。
松本 石原慎太郎(※4)は都知事選に負けて、あとで「敗北を経験してよかった」と言ってましたが、敗戦を経て出来上がった人間がアレですからね。勝っても負けても人間は変わらない。
永山 一生チンピラでいて欲しかったな(笑)。次のページに色々出てきますね。ハドリー・チェイス(※5)の『ミス・ブランディッシの蘭』(※6)。これは俺も若い頃読んで衝撃受けましたね。9k=-1
松本 映画にもなりましたけど、映画はおとなしかったですね。例のシーンもなかったし。
永山 マゾヒストが下腹刺されて射精するところですね。
松本 さすがになかったですね。ラストも違ったような気がするなあ。
永山 ハドリー・チェイスがイギリス人だって知って驚きましたね。
松本 そうなんですね。
永山 アメリカのスラング辞典使っって6週間で書いた。
松本 けっこう書いてますよね。何冊か読んでますが。
永山 創元推理文庫ですね。次にメルヴィル。ジャン=ピエール・メルヴィル(※7)。メルヴィル映画のトレンチコートというとアラン・ドロン主演の『サムライ』のイメージが……。
松本 これこれ(資料を出してくる)、『サムライ』について吉行淳之介(※8)が『映画芸術』でストーリーがよくわからないとか、色々書いているんだけど。
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永山 メルヴィルというとノワールのイメージなんですが、『恐るべき子供たち』撮ってるんですね。
松本 初期はそうですね。ヌーベル・ヴァーグのはしりみたいな。『影の軍隊』とかレジスタンス物もありますね。
永山 ヌーベル・ヴァーグの監督たちからはすごく尊敬されているみたいですね。
松本 これが三島由紀夫の『サムライ』論。なかなかいいこと書いてます。
「サムライ」論 三島由紀夫15n6g13n01
永山 トレンチコートの下に『ブリット』(※9)のマックィーンの黒タートル。……ときて、日活ニューアクション(※10)。
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松本 観てました?
永山 あんまり観てないですね。『野獣の青春』(※11)はワリと最近観ました。日活アクションは学生時代、真っ昼間にやってるテレビの名画劇場で小林旭の『渡り鳥』シリーズ(※12)とか観てましたけど。
松本 『野獣の青春』は、こないだ中島史雄さんが観て絶賛していた。
永山 暗い映画ですよね。
松本 でも奇妙な味があるじゃないですか。変態ばっか出てくるような。
永山 「俺にも銃を持たせろよぉ」って兄ちゃんとか(笑)。
松本 飛行機マニアのヤツとか(笑)。川地民雄がカミソリ野郎で出てたでしょ。顔、切っちゃう。
永山 映画といえば一昨日の「一夜限りのシークレット上映会」(※13)は、先生の自作AV「闇の宴」とアニメ版「堕天使たちの狂宴」でしたね。
松本 そうそう。
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永山 竹熊さんだっけな。アニメの方観て「『修羅雪姫』(※14)とかあっちのイメージですねえ」って。
松本 バシバシ殺しちゃうから?
永山 暗いし。
松本 誰か「若松孝二(※15)だ」って言ってた。エロ+暴力。流石に若松孝二には、あんな幼女は出てこない。
永山 若松孝二はそんなひどいことしない(笑)。それで、絵柄に関して園田光慶(※16)と西郷虹星(※17)の名前が出てきますね。
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松本 これ、西郷虹星のヤンコミに載ったやつですね。『ノスパイフ戦線』。こういうキャラで行こうと。かっこいい絵です。


■脚註
※1:美濃部亮吉(1904-1984年)。マルクス経済学者。東京教育大学教授。東京都知事を三期(1967-1979)務める。第一期と第二期は社会党・共産党の推薦。第三期は社会党・共産党・公明党の推薦で、自民党推薦の石原慎太郎を破り当選。

※2:デーブ・ジョンソン(David Allen “Dave” Johnson、1943- )。1962年にプロ契約を結び、3Aを経て1965年にメジャーデビュー(オリオールズ)。1966年に新人王。ワールドシリーズに4回出場し、2回の優勝を経験。1975年に巨人に移籍するが散々な成績を残す。翌年には好成績を残すとともに長嶋巨人の初優勝に貢献。1977年にメジャー復帰。1978年に現役引退。1984年にニューヨーク・メッツの監督に就任。1986年にワールドシリーズ優勝。その後、メジャー球団や五輪チーム、WBC代表チームの監督を歴任。2011年ワシントン・ナショナルズの監督に就任し翌年、地区優勝。2013年に引退。

※3:ゲーリー・トマソン(Gary Thomasson、1951-)。1972年にサンフランシスコ・ジャイアンツでメジャーデビュー。1978年にニューヨーク・ヤンキースで優勝を経験。その後ロサンゼルス・ドジャースを経て、1981年に巨人に移籍。期待されたほどは活躍できず「トマ損」「三振王」などとなじられ、1982年には藤田元司監督とトラブルを起こし解雇されてしまう。赤瀬川原平の『超芸術トマソン』(筑摩書房、1987年)の語源となった。

※4:石原慎太郎(1932-)。1956年、デビュー作『太陽の季節』で第34回芥川賞を受賞。同作映画化作品で実弟の石原裕次郎をデビューさせる。1968年には参議院議員に当選。1972年に衆議院議員に鞍替えし、8回当選。1975年に都知事選で敗北。衆議院議員に復帰し、1995年まで議員活動を続ける。1999年に都知事当選。2012年に辞職するまで4選を果たす。衆議院議員に復帰するが2014年に政界を引退。

※5:ジェイムズ・ハドリー・チェイスの作品は、創元推理文庫から翻訳が大量に出ていたが、現在では全部品切れ絶版。映画化作品も多数。シャーロット・ランプリング主演の『蘭の肉体』(パトリス・シェロー監督、1974年)、ジャンヌ・モロー主演の『エヴァの匂い』(ジョセフ・ロージー監督、1963年)、ジャン=ポール・ベルモント主演の『ある晴れた朝突然に』(ジャック・ドレー監督、1965年)など。『その男凶暴につき』(ジョルジュ・ロートネル監督、1999年)は北野武監督がタイトルだけパクった。

※6:『ミス・ブランディッシュの蘭』(1938年)はハドリー・チェイスの処女作。過激すぎてあちこちで発禁になった。現在読めるのは邦訳もそうだが修正版。映画化タイトルは『傷だらけの挽歌』(ロバート・アルドリッチ監督、1971年)。映画のラストはダー松先生が指摘するように2バージョンある。ロードショーではヒロインが川に身を投げるという結末だったが、テレビ放映やDVDでは、それよりも前の時点で終わる。(mickmac氏のブログ「TEA FOR ONE」のエントリー「傷だらけの挽歌」参照。

※7:ジャン・ピエール・メルヴィル(1917-1973年)はフランスを代表する映画監督の一人。『サムライ』(1967年)はアラン・ドロン主演のストイックな殺し屋の物語。『恐るべき子供たち』(1950年)は監督第二作だが、原作者ジャン・コクトー(1989-1963年)から脚本・監督を依頼された。

※8:吉行淳之介(1924-1994年)は作家、エッセイストとして活躍。『原色の街』(1956年)、『浮気のすすめ』(1960年)など著作多数。

※9:『ブリット』(ピーター・イェーツ監督、1968年)。

※10:日活ニューアクション。1960年代末、藤田敏八、長谷川安春などの新進監督による新しいスタイルの日活アクション映画をこう呼ぶ。命名者は建築家、映画評論家の渡辺武信。

※11:『野獣の青春』(1963年)。鈴木清順の日活時代の作品。原作が大藪春彦で、主演が宍戸錠。「日活100周年邦画クラシックGREAT20」の一本としてHDリマスター版が発売中。

※12:『渡り鳥シリーズ』は、1959年の『ギターを持った渡り鳥』(斉藤武市監督)から1962年の『渡り鳥北へ帰る』まで、全8作の小林旭主演のアクション映画シリーズ。

※13:「一夜限りのシークレット上映会」は板橋のカフェ『百日紅』で開催された「ダーティ・松本個展『オールタイム大淫花蝶祭1949→2015』」(2015年4月23日-5月18日)内の企画として5月9日に開催された。アニメ『堕天使たちの狂宴』とダーティ・松本唯一のAV監督作品『闇の宴』(1985年)が上映された。
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※14:劇画『修羅雪姫』(1972-1973)は原作:小池一夫、作画:上村一夫による明治時代を舞台にした復讐譚。藤田敏八監督、梶芽衣子主演で映画化(1973年)。クエンティン・タランティーノ監督が影響を受けたことでも知られる。

※15:若松孝二(1936-2012年)。1963年にピンク映画『甘い罠』で監督デビュー。『処女ゲバゲバ』(1969年)、『赤軍-PFLP・世界戦争宣言』(1971年)、『キスより簡単』(1989年)、『完全なる飼育 赤い殺意』(2004年)、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008年)、『海燕ホテル・ブルー』(2012年)など膨大な監督作品の他、『荒野のダッチワイフ』(大和屋竺監督、1967年)、『愛のコリーダ』(大島渚監督、1976年)、『赤い帽子の女』(神代辰巳監督、1982年)など多くの映画作品をプロデュースした。

※16:園田光慶(1940-1997年)。ありかわ栄一名義で貸本劇画デビュー。その後少年誌に活動の場を移した。『アイアン・マッスル』、『あかつき戦闘隊』(原作:相良俊輔)、『赤き血のイレブン』(原作:梶原一騎)など。

※17:西郷虹星。生没年不詳(ダム湖に釣りに行って釣り道具を残して行方不明になった模様)。貸本劇画出身。園田光慶、永井豪のアシスタント経験もある。代表作は大人向けのセックスコメディ『聖アオカン』(1973年)など。変わったところでは『超人ハルク』(『ぼくらマガジン』連載、1970年)第一部の作画を担当している。同作は、アメコミを原作に小野耕世が監修、小池一夫が構成を担当。ちなみに、『ハルク』連載時には早見純がアシスタントで参加している。詳細は大西祥平『小池一夫伝説RETURNS』(『映画秘宝』2009年5月号)を参照。



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