特別連載 ダーティ・松本×永山薫 エロ魂!と我が棲春の日々(9)

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■ドクターペッパーのサイレンサー
永山 フィルムノワールは、よくご覧になったんですか?
松本 フィルムノワールには変態が出てこない(笑)。ワリと端正ですよね。むしろ、清順の『野獣の青春』みたいな。変態ばっかし出てくるから、あっちの方がイメージ的に近いですよね。まともなヤツが一人も出てこない。
永山 それでトドメが『殺人者たち』(※1)。

↓結末部分。ネタバレ注意。

松本 『殺人者たち』は高校生の時に観たんですね。
永山 64年の映画ですね。カッコイイっすよねえ、リー・マーヴィン。
松本 あと、相棒のクルー・ギャラガーってのがちとネジが狂っていて突然凶暴になったり赤ん坊みたいにへらへらしたり……かなり変なヤツです。
永山 あれは相当変態ですよね。で、リー・マーヴィンのサイレンサーを……。
松本 そのでっかいサイレンサーをドクターペッパーに変えたと。ポップな感じにしようと。そういえばサイレンサーはあれですね。『殺しの許可証(ライセンス)』(※2)ってあったんだけど、スパイ物で、サイレンサーがかっこよくて。YouTubeに転がっていると思うけど。サイレンサーを持って連射する。銃はモーゼル・ミリタリー(※3)。

永山 それは無理がある(笑)。
松本 カッコイイから許してやって(笑)。何しろ連射して、ヘリコプターまで落としちゃうんだから……。
永山 パイソンにサイレンサーってのも無理ありますよ(笑)。先っちょがネジ切りにくいじゃないですか。
松本 強引ですね。許してください。しかし、あんまり音が小さいと映画なんかでも迫力ないですね。プシュッ、プシュッじゃあね(笑)。清順さん、あの後、『殺しの烙印』(※4)、カルトムービーです。世界中でマネされた。YouTubeに海外版の予告編が転がってますよ。主人公が好きなのが飯の炊ける匂い。「これがたまんねえな」と。

永山 それ、超変態ですよ(笑)。パイソン(※5)って最近見ないですねえ。
松本 そうかもしんないなあ。『ダーティハリー』はS&W M29(※6)だけど、あれ以降、昔の巨大マグナムはあんまり出てこないですねえ。
永山 実用性ですかねえ。
松本 実用性って(笑)。何を撃つんですか?
永山 先生は撃たないんですか、ハワイで?
松本 撃ちました。観光客用だから形はデカくても22口径とかね。安全のために。
永山 そう言えば、新婚さんで、奥さんの頭撃っちゃった人がいましたね(※7)。
松本 ありましたねえ。ワイキキの射撃場は銃口が変な方向向かないように鎖つけてあってね。「我が社は事故ゼロです」と謳ってる。そうじゃないところもあって、もう弾がないと思って、ふざけて撃ったら、入ってた。頭吹っ飛ばしちゃった。
永山 銃口を人に向けちゃだめってのが最低のマナーですね。
松本 グァムあたりだと、マシンガン撃たせてくれるらしいですよ。
永山 俺の知り合いは、前世紀ですが中国のノリンコ(※8)で軽機関銃撃ってきたって言ってました。
松本 観光で行ったんですか?
永山 向こうはバイヤーだと思ったんじゃないかと(笑)。
松本 観光じゃだめか?
永山 どうなんでしょうねえ(笑)。ええと、本題に戻すとコルトパイソンと『殺人者たち』とサイレンサーがあって、ドクターペッパー(※9)。なんでまたドクターペッパーなんですか?
松本 ちょうどあの頃、日本に入ってきたんじゃないかな、やたら宣伝してまして。実際、味は俺の好みじゃない(笑)。なんか薬臭くって。イメージ的にいいかなと。
永山 今でもマニアックに好きな人はいるみたいですよ。まとめ買いしたりとか、あんまり売ってないから。
松本 アメリカでも飲む人いるんだね。潰れてないから。
永山 このカタカナのロゴの缶が見つからないんですよ。

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松本 持っていればプレミアですね。
永山 プレミア付きますかねえ。これ、ただの空き缶じゃないですよね?
松本 中はサイレンサーですよ。勘違いしてるヤツいるかもしれないけど(笑)。当時入ったきたばかりだったので、ポップな感じが出るかなと。未だに憶えている人がいるわけですよ、ドクターペッパーのサイレンサーというだけで、しっかり印象に残っている。
永山 その意味では大成功ですね。秘密捜査官は全何作あるんですか?
松本 12〜3作あると思うんですけど。単行本1冊では収まらない。復刻した時には全部まとめて放り込みました。
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永山 『愛奴狩り』(※10)に1から6まで入ってますね。ひでぇことしてるなあ。本物の目玉焼(笑)。
松本 この頃から出てますよ、すでに玉子が(※11)。元々活劇が描きたかったんですよ。エロ漫画誌はわりとなんでもやらせてくれたんで。じゃあ、ここでやろうと。
永山 セックスシーンが少ないですよね。
松本 活劇の方に重点を置いてる。
永山 おっ、あとがきがある。
松本 本人が書いてるんですか?
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永山 何言ってんですか(笑)。あれ? 全8話って書いてありますよ。そのうち6話を収録。
松本 あ、ページ数が多くて入らなかったんだな(笑)。
永山 「マンガで一本立ち出来た記念すべき可愛い作品(こども)達です」と書いてらっしゃいます。
松本 マンガはやはり連載を持たないと名前が売れません。初の連載で一皮むけたかも?


■脚註
※1:『殺人者たち』(ドン・シーゲル監督、1964年)はアーネスト・ヘミングウェイの短編『殺人者』を元にしている。『エロ魂』本編で書かれているように、役者時代のレーガン元大統領が標的役で出演。

※2:『殺しの許可証(ライセンス)』(リンゼイ・ションテフ監督、1965年)はイギリス製のかなりB級なスパイ活劇。同タイトルでダーク・ボガードとエヴァ・ガードナー主演、シリル・フランケル監督作品(1976年)があるが別物。こちらにもサイレンサーが登場する。原題は前者が「Licensed to kill」、後者が「Permission to kill」

※3:モーゼルミリタリー(Mauser C96)は1896年より製造が開始された歴史的名銃。口径7.63mm。実包は7.63×25mmモーゼル。銃把は「ブルームハンドル(箒の柄)」と呼ばれ、手の小さなアジア人や女性でもグリップしやすい。固定弾倉方式で上からクリップ(装弾子)を使って押し込む。後に9×19mmパラベラム弾を使用する「レッド9」(M1916)、フルオートモデルM713(M1931)、M712(M1932)など様々なバリエーションが生まれ、さらには中国山西軍閥製の45ACP弾仕様の17式、あるいはスペインのアストラ社製などのコピーも数多く生まれた。『殺しの許可証(ライセンス)』ではモーゼルミリタリー同士の対決(敵役はショルダーストック付き)が見られる。下の写真はWikipedia「モーゼルC96」より。9ミリモデル。
Mauser_C96_M1916_Red_4

※4:『殺しの烙印』(1967年)。宍戸錠主演。この作品を観た日活の堀久作社長が激怒し、鈴木清順監督の専属契約を一方的に打ち切り、清順作品を封鎖という大騒動に発展した。清順の提訴により最終的に1971年に和解が成立。ちなみにこの作品にもモーゼルミリタリーが登場。もちろんステージガンだがショルダーストック付きで20発箱形弾倉付きのM1932がモデルのようだ。

※5:コルト・パイソンは1955年に開発された357マグナム弾を発射できるリボルバー。1999年に製造中止。
下の写真はWikipedia「コルト・パイソン」より。
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※6:S&W M29は1955年に開発された.44マグナム弾を使用するリボルバー。『ダーティハリー』で一躍有名になる。現在でもステンレスモデルのM629が販売されている。

※7:ハワイの射撃場で新婚旅行中の妻が事故死した事件については詳細不明。夫が弾倉が空だと思って妻に向かって引き金を引いたという説と、妻がふざけて銃を持ったまま夫を振り返ったところ、レンジマスターが「夫を射殺しようとした」と誤認し、妻を射殺した説がある。

※8:ノリンコ(Norinco)は中国最大の兵器工廠、中国北方工業公司(North Industries Corporation 通称・中国兵器工業集団)の略称。

※9:ドクターペッパー(Dr Pepper)は1885年に発売を開始。日本では1973年から発売。現在では関東、東海、沖縄地区で販売されている。初期のカタカナロゴの缶についてはブログ『坂戸一義、コカコラなる飲料についてかく語りき』の「ドクターペッパー 250ml缶 (1980年・東京コカ・コーラボトリング多摩工場製)」(2010/3/16(火) 午後 11:03エントリー)に紹介されている。http://blogs.yahoo.co.jp/noboruyuki2003/folder/578666.html?m=lc

※10:『愛奴狩り』(久保書店、1987年)。

※11:ダーティ・松本作品では玉子と目玉が重要。AV監督作品『闇の宴』では大量の生玉子が登場。目玉は本文で触れたように、焼かれたり、切られたりと散々な目に合う。『眼球愛』(久保書店、1998年)という作品集もある。



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