1/4■洋ピンとエロギャグ漫画初体験
2/4■父・松本大助と『日本列島改造』
3/4■痴漢漫画家・小多魔若史の伝説
4/4■故・玖珂みのをと伊万里すみ子
■洋ピンとエロギャグ漫画初体験
松本 今回は色々と出てきますね。親父も出てくるし、小多魔若史(※1)も出てくる。
永山 能條純一さん(※2)も出てきますね。初期は農條という表記でしたが。あと玖珂みのをさん(※3)。
松本 今回は他に柳沢きみお(※4)、村生ミオ(※5)の名前も。
永山 あとは、みのり書房(※6)。オタク的には『OUT』が有名ですが、『官能劇画』って誌名の官能劇画誌も出していたんですね。『漫画スカット・カスタム』は?
松本 最初『漫画スカット』(※7)が売れたみたいで、増刊で『漫画スカット・カスタム』を出した。
永山 ネットで調べても本誌の方は出てくるんですが、あんまり『カスタム』の方は出てこないです。で、原著の162ページに登場する石川さんが後に白夜書房を経て日本出版社(※8)で『Vコミック』(※9)ということが書いてあるんですが、実は俺、『Vコミック』で連載持ってたんですよ。仙田弘さん(※10)と山根麗子さんが編集請け負ってた頃ですけど。
永山 僕が書いてた頃って、グラビアのある劇画誌でした。A5判の。
松本 似たようなのが2〜3冊ありましたよね。
永山 流行ったのは一瞬でしたけどね(笑)。
松本 あの頃、カメラマンが腐るほどいましたからね。グラビア誌一杯あったし、石を投げればカメラマンに当たるくらいいました。
永山 今もう仕事ないっすよ。以前はちょっとした取材でもライターと編集者とカメラマンがきましたけど、今は一人できて、写メ撮ってすませるなんて普通ですから(笑)。
松本 ビデオ行った人とかね。
永山 消息不明になったと人とか。でも、写真上手いなあって思った人は生き残ってますね。
松本 雑誌の世界だと、当時サン出版なんかが雑誌一杯やってたから、あの辺で仕事やってました。
永山 石川さんの下の名前はなんでしたか?
松本 なんだったかな。白夜でも上の方だったんだけど、上ともめて日本出版社に行ったんだけど、日本出版にいて そこから他の会社に行った編集さん、多いですよ。矢崎泰久(※11)の親父がやってた会社です。矢崎泰久はエロ本なんかやりたくないって言って出ていった。老舗ですよ。
永山 戦記漫画も出してましたね。調べたら2012年に自主廃業してました。
松本 『劇画ダイナマイト』(11年に休刊、辰巳出版)やってた小島さんも日本出版社にいたらしい。けっこう色々いたらしい。で、石川さんの企画でハリー・リームス(※12)みたいなヤツが出てくる漫画(笑)。
永山 ハリー・リームスは僕ら世代でもギリギリ知ってます。『ディープスロート』(※13)で超有名になりましたね。主演はリンダ・ラヴレース(※14)。
松本 『ラヴレース』(※15)って映画ありましたね。リンダ・ラヴレースも『ディープスロート』みたいなポルノムービー出たのは一本だけなんだ!
永山 Wikipedia見たら、短い尺のは出てるみたいですね。旦那がヒモみたいなヤツで。
松本 そうそう(笑)。それちゃんと描いてた。リンダと別れて『グリーンドア』(※16)のマリリン・チェンバース(※17)と結婚する。ほとんど女優のヒモです。
永山 『ディープスロート』の出演料は1250ドルで、映画の収益は6億ドル。
松本 1250ドルってそんなものなんですか?
永山 元々低予算ムービーなのでそんなもんじゃないすか。
松本 旦那が全部持ってった(笑)。
永山 まあ、一方的な言い分だとは思いますけどね。あの頃は洋ピンはあんまり観てないんですか?
松本 観ましたよ、それなりに。ぼかしが多すぎて、おまけに何やっているかわからないくらい巨大なぼかしでがっくり!
永山 シチュエーションだけですからね。エロ漫画でもシチュエーションだけのってあるじゃないですか。医者と看護婦とか。で、洋ピンはセックスもフィジカルな体操みたいなの(笑)。
松本 そうそうそう(笑)。あんまり隠微じゃない。アメリカン・ポルノはスポーティなんだよね。
永山 あんまりエロさがない。ビックリしたりはするんですけど。ちんちんがデカイとか(笑)。
松本 何本か隠微なのがあったな。浣腸もので。『ウォーターパワー』(※18)だったかな。あと『ミス・ジョーンズの背徳』(※19)。何本かアートなヤツがあって、それは異色で憶えている。
永山 『ミス・ジョーンズ』って文芸ものじゃなかったですか?(※20)
松本 そうなの?『グリーンドア』は良かった。ドキュメントっぽい作りで、最後、段々と掠ってきた女を犯ってる内に、観客も巻き込んで、俺の漫画みたい。
永山 自分の洋ピン体験では『ワイルド・パーティー』(※21)が衝撃的でしたね。
松本 ラス・メイヤー監督(※22)ですね。
永山 巨乳映画で有名な。ラストが衝撃的でしたね。斬首シーンが。
松本 そんなのありましたっけ?
永山 えーっ!? ほら謎のプロデューサーが男を縛り上げて、「私は実は女だ」ってオッパイ見せたら、「ブスだ!」って大笑いされて、首を斬り落として殺しちゃう。
松本 すっかり忘れました(笑)。
永山 それでセックスコメディを描けと言われて『黄金大(デカ)バット』を描いた。
松本 三回くらいやったけれど、なかなか面白いのができなくて……。三回目がちょうど親父の葬式に重なりまして、ギャグが浮かばない。それで「今回、面白くないですね」って打ち切りになって。これは次の回とかぶりますね。
永山 いいですよ、続けてください。
松本 この時だけですよ、〆切延ばしたのは。
永山 素晴らしい。俺なんかしょっちゅう延ばしてますよ。
松本 編集が同情してくれるかと思ったら、あっさり終了(笑)。これが唯一のギャグエロ漫画体験ですね。編集者って冷たい存在だなと確認しました!
永山 単行本に収録してないんですか?
松本 恥ずかしくてお見せ出来ません。
永山 トビラだけでもお願いしますよ。
松本 探しておきます(笑)。この親父の顔は誰から取ったかわかります?
永山 星一徹ですか?
松本 あ、そういう風に取るのか。見えなくもないなあ。そうじゃなくて『アイアンマッスル』の園田光慶(※22)風です。
■脚註
※1:小多魔若史(おたまじゃくし)。Wikipediaには「こたまわかふみ」という読みになっているが、ほとんど見たことがない。詳しくは本稿「3/4■痴漢漫画家・小多魔若史の伝説」を参照。
※2:能條純一(のうじょう じゅんいち)。1971年、『COM』で佳作入選。同誌でのデビューが決定していたが、同誌休刊により幻のデビューとなる。デビュー後は農條純一名義の『アニマル処女』(1976、サン出版)の他、『甘い生活』(1981、壱番館書房)、『愛撫して』(1982、同)などのエロ劇画、お色気劇画を描いていた。その後、麻雀劇画『哭きの竜』(1985-1991、竹書房)で大ブレイク。将棋漫画『月下の棋士』(1993-2001、小学館)で第42回(平成8年度)小学館漫画賞を受賞。
※3:玖珂みのを(くが みのを)。2003年没。妻・伊万里すみ子の原作を担当。詳しくは本稿「4/4■故・玖珂みのをと伊万里すみ子」を参照。
※4:柳沢きみお(やなぎさわ きみお)。『女だらけ』(1973-1975、集英社)、『月とスッポン』(1976-1982、秋田書店)など少年誌のH系ラブコメで人気を獲得。1979年には『翔んだカップル』(1978-1981、講談社)は映画化、ドラマ化され、第3回講談社漫画賞少年部門を受賞している。その後、青年誌に活躍の場を移し、『特命係長 只野仁』シリーズ(1998-)が人気連載中。師はとりいかずよし。アシスタント出身者に村生ミオ、小多魔若史など。
※5:村生ミオ(むらお みお)。1972年デビュー。少年誌ではラブコメ『胸さわぎの放課後』(1981-1983、講談社、テレビドラマ化)などで人気を博す。後に青年誌に移り、『官能小説家』(2005-2006、集英社)、『SとM』(2005-2012、日本文芸社)など人気作品を描く。
※6:みのり書房。1995年倒産。アニメ誌『OUT』(1977-1995)などの版元だった。
※7:『漫画スカット』。みのり書房は1980年代に同誌や『官能劇画』誌を発行していた。詳細不明。
※8:日本出版社。1938年戦線文庫編纂所として設立、1939年に興亜日本社、戦後に日本社、1966年に日本出版社と社名を変更した。2012年に自主廃業。
※9:『Vコミック』(1980-2006年、日本出版社)。グラビアの多さが売り物だったA5サイズの漫画誌。
1997年1月号
※10:仙田弘(せんだ ひろし):東京三世社から妻の山根麗子と独立して編集プロダクションを設立。著書に70年代エロ雑誌青春記『総天然色の夢』(2001、本の雑誌社)がある。
※11:矢崎泰久(やざき やすひさ)。1933年生まれ。早稲田大学卒業後、父の経営する日本出版社に勤務後、話の特集社を独立させる。同誌元編集長。著作多数。リベラル派論客の一人。
※12:ハリー・リームス(1947-2013)。アメリカのポルノ映画男優。『ディープ・スロート』(1972)でスターとなる。
※13:映画『ディープ・スロート(Deep Throat)』(1972)。ジェラルド・ダミアーノ監督作品。低予算ポルノながら大ヒット作品となる。
※14:リンダ・ラヴレース(1949-2002)。『ディープ・スロート』の主演女優。後にリンダ・ラヴレースは出演を強要されたと語り、アンチポルノの論客となる。
※15:映画『ラヴレース(Lovelace)』(2013)。ロブ・エプスタイン&ジェフリー・フリードマン監督作品。リンダの伝記的作品。
※16:映画『グリーンドア(Behind the Green Door)』(1972)。ミッチェル兄弟監督作品。『ディープ・スロート』同様、低予算で大ヒットしたハードコア・ポルノムービー。2500万ドル稼ぎだした。
※17:マリリン・チェンバース(1952-2009)。『グリーンドア』の主演女優。2004年には大統領選にPCPから公認候補として出馬。
※18:映画『ウォーターパワー(Water Power)』(1977)。ショウン・カステロ監督作品。浣腸魔の物語。公開当時は結構衝撃的だった。
※19:映画『ミス・ジョーンズの背徳(The Devil in Miss Jones) 』(1973)。ジェラルド・ダミアーノ監督作品。ジョージナ・スペルヴィン主演。評価が高く、続編が6本も作られた。
※20:間違い。映画『ブリジット・ジョーンズの日記(Bridget Jones’s Diary)』(2001、シャロン・マグアイア監督作品)とごちゃごちゃになっている。
※21:映画『ワイルド・パーティー(Beyond the Valley of the Dolls)』(1970、ラス・メイヤー監督作品)。『哀愁の花びら(Valley of the Dolls)』(1967、マーク・ロブソン監督作品)の続編を作ろうとしたが許可が下りなくなったのでパロディとして作られた。
※22:園田光慶(そのだ みつよし)1940-1997。旧筆名ありかわ栄一。『アイアンマッスル』(1965)は資本劇画末期の傑作アクション劇画。園田の代表作としては『あかつき戦闘隊』(1968-1969、原作・相良俊輔)、『赤き血のイレブン』(1970-1971、原作・梶原一騎)などがある。