特別連載再開! ダーティ・松本×永山薫 エロ魂!と我が棲春の日々(10)

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■父・松本大助と『日本列島改造』

満州激闘伝

永山 先生のお父さんの「松本大助」の過去が出てきました。

松本 親父も若い頃は暴れん坊だったんですね。

永山 お父さんは大陸浪人だった?

松本 もっと詳しく話聞いておけばよかった。十代で友達と一緒に船に隠れて満州に密航して……、それからいろいろと……。

永山 「拳銃を乱射し」って、けっこう物騒じゃないですか。

松本 拳銃もほんとです。軍隊が占拠してた炭鉱かなんかで監督官やらされて、屈強なクーリー(苦力)相手に十代のガキだからって舐められちゃいけないって、一番強そうなヤツを、なんの落ち度もないヤツを拳銃で撃って、一番強いとこ見せて、それから可愛がる。それが親父のテクニック。

永山 まさか射殺したんじゃないでしょうね?

松本 足を撃った。足許じゃなくて。

永山 ひどいなあ(笑)。

松本 ひどい話ですよ(笑)。でもねえ、そうはいいながら戦争行ってないんだ。その後、帰国したけど工場で働いてたって。「俺はその辺はずるいから」って。徴兵を逃れたんじゃないですか。

永山 ウチの親父は台湾の燃料廠でした。最初は徳山(山口県)の燃料廠にいたんだけど海軍だから陸軍の召集令状二回握り潰してもらって、三回目来るとまずいからと台湾に転勤させられたんで、従軍はしてないんですよ。だから、ひどい目にはあわなかった。

松本 ウチの親父もひどい目にはあってないですね。

永山 大陸ではひどいことする側だったじゃないですか(笑)。拳銃は南部(※1)っぽいですね。『満州激闘伝』はフィクションであると?

松本 その辺はね。やってることはこんなことやってた。

永山 「戦後は政界で暗躍したこの男も……」って、政界で暗躍したんですか?

松本 暗躍とまではいかないけど一応、代議士の許で秘書みたいなことやってました。

永山 肺をなくされたのは戦後なんですか?

松本 戦後だけど、20代かな、30代かな。けっこう若い時に肺やっちゃって。気力だけはあったんです。片肺を取ったんで肺活量半分,その片方も悪かったんで肺活量は常人の1/4かも?

永山 この頃はもう入院されていたんですか?

松本 死ぬ直前ですから。死ぬ2〜3年前です。ずっと入院してて、俺の原作を書こうとして何も書いてない。タイトルだけ書いてあった(笑)。

日本列島改造

永山 このタイトルほんとなんですか?

松本 そうです。『日本列島改造』(笑)。自分の名前書いて、その後、何も書いてない。まあ、なんか、簡単に書けるって、みんな思うんじゃないですか(笑)。

永山 書き慣れてると違うんだけど、書き慣れてないと、イザ紙に向かうと書けなくなりますから。

松本 小説もそうですかね?

永山 小説もそうですね。

松本 漫画家になろうとして……そういう人もけっこういるのかな? ハードルを下げれば描くのは出来ても、プロになれるかは別問題。

永山 ハードル下げればね。

松本 ハードル高いままの人はなかなか描けないらしいですね。ジャンプで連載持って、キャラクター商品作って……そういう人はハードル高いから(笑)。

永山 ハードルっていくつかあるじゃないですか。一回でもいいから商業誌に描きたいってハードルがあって、次は連載持ちたいとか、単行本出したいとか。徐々に上げていけばいい。最後は大ベストセラーで。

松本 ベストセラーといえば、こないだ『孤独のグルメ』(※2)第1巻読んで、奥付みたら54刷でした。コンスタントにお金が入ってくる作品を1本でも持っているということは宝ですよ。ああ、こういうの描きたいなあ(笑)。

永山 じゃあ俺が原作書きますよ。『孤独の……。

松本 『孤独の……』?

永山 『孤独のなんたら』(笑)。

松本 『孤独のグルメ』は何がよかったのかなあ。

永山 組み合わせでしょうねえ。谷口ジローさん(※3)の絵と久住くん(※4)の原作。

松本 最初は原作者も罪の意識があったらしい。「あの谷口ジローに、こんな漫画描かせていいんだろうか?」というジレンマがあったらしいですよ。あの数々の名作を放った漫画家に、喰ってるだけの漫画を描かせるなんて。それはわかる気がする。

永山 久住くんがいつも組んでた泉靖紀くんと全く同じことやっても売れなかったでしょう。

松本 あの食物の緻密な描写。喰ってる時の美味そうな表情。8ページくらいで濃密だもんなあ。小さいコマにびっちり入ってるし。谷口ジローどうだったのかな、描いてて?

永山 楽しかったんじゃないですか。いつも『神々の山嶺』とか、『猟犬探偵』(※5)とかハードボイルドなもの描いてるから、どっちかつーとリアルで暗い話多い人だから。

松本 気分転換になるし。

永山 だって料理描こうと思ったら、喰いに行かないと。

松本 でも後書き読んだら、ほとんどは原作者が行って写真を300枚くらい撮ってきて、そこからチョイスするって。本人はあんまり行ってないんだ。

永山 それはつまんないな(笑)。

松本 連載と言っても年に2〜3本ですね。

永山 しかし、久住君は目の付け所が変だなからな(笑)。

松本 『ダンドリくん』(※6)は面白かったけどな。そんなに売れなかったけど俺は好きだ。

永山 自分が面白がれないのはやんないみたいですね。

松本 後書き読むと主人公を飲めない設定にしたのは、飲める設定にすると「オレ」になるからだと(笑)。

永山 テレビの最後のコーナーで、いい感じで酔ってルポしてますね(笑)。昔、あんな飲んだっけなあ。ちょっと一緒に仕事したことあって、『別冊宝島』(※7)で嘘のヨーロッパ紀行みたいなの書いてもらった。その縁で、自販機雑誌紹介して、泉昌之で『かっこいいスキヤキ』(※8)みたいなの描いたのかな。単行本に入ってるはずです。

松本 他にも原作書いてるの?

永山 一杯やってますよ。『花のズボラ飯』(※9)とか、『荒野のグルメ』(※10)とか。

松本 食い物漫画一杯あるなあ。

永山 一杯あるから競争激しいですよ。蕎麦は『そばもん』(※11)があり。

松本 ケーキものは?

永山 女性誌だとけっこうあります。『失恋ショコラティエ』(※12)とか。

松本 女性の間でケーキの食べ歩きが流行ってるから。

永山 食べ物漫画で売れてるのは話が面白いですよね。

松本 両方楽しめる。

永山 駅弁漫画(※13)もありますね。旅が描けるから。刑事もの(※14)もあります。

松本 じゃあ、全国の猫喫茶を訪ねて……似たようなもんか(笑)。

永山 原作書いて、女性作家に女性誌で描いてもらった方がいいですよ。旅する猫好きの女性記者とか。楽しいですね。取材で全国旅して、猫を愛でる。

松本 猫をからませると人気が出るかも。そういえば巣鴨地蔵通りのお寺の前にフクロウカフェ(※14)ができまして。覗いてみたら、内装に金かかってましたね。ドリンク付きで1500円。微妙な値段(笑)。

永山 先生、ふくろう喫茶やりましょう!

松本 あれ、外しちゃったら借金何千万ですよ(笑)。けっこうちゃんとした建物で、広々としてるし、リッチな造りで。梟も金かかるでしょ。

永山 ブームの内に転売しちゃえばいいんです……って、ひでぇな(笑)。

松本 メイド喫茶めぐりは?

永山 今さら感があるのでダメでしょう(笑)。むしろ渋谷にあるガングロカフェ(※15)みたいなユニークさで勝負した方が……。

松本 ガングロ! 絶滅危惧種だと思ってたら(笑)。

永山 残存者利益ですよ。今や観光スポットです。懐かしいのと外人が来る。


■脚註

※1:南部式自動拳銃。1902年に南部麒次郎によって開発された。帝国海軍、陸軍に採用され、改良版である十四年式拳銃が陸軍に採用された。また中国でも使用する軍閥があり、大型、小型などバリエーションがある。

Photographer: Mak Thorpe, taken 2006 at Battery Randolf US Army Museum, Honolulu.

Photographer: Mak Thorpe, taken 2006 at Battery Randolf US Army Museum, Honolulu.

※2:『孤独のグルメ』(1994-、作画・谷口ジロー、原作・久住昌之)。現在第2巻まで刊行中。単行本、文庫、新装版があり、文庫は年2回ペースで増刷がかかるらしい。テレビドラマ化され、大ヒット。

※3:谷口ジロー(たにぐち じろう)。1947年生まれ。漫画家、バンド・デシネ作家。石川球太のアシスタントを経て1971年にデビュー。代表作として『事件屋稼業』(1980、原作・関川夏央)、『「坊っちゃん」の時代』(1987-1996、原作・関川夏央)、『神々の山嶺』(2000-2003、原作・夢枕獏)などがある。

※4:久住昌之(くすみ まさゆき)。1958年生まれ。漫画家、原作者。1981年、作画の泉靖紀と組んだユニット「泉昌之」として『ガロ』(青林堂)でデビュー。作画・久住卓也(実弟、絵本作家)と組んだユニット「Q.B.B」としても活躍。単著、ユニット作品、原作作品など単行本多数。

※5:『猟犬探偵』(2011-2012、原作・稲見一良)。

※6:『ダンドリくん』(1990-1991、泉昌之→久住昌之+泉靖紀)

※7:『別冊宝島20センスパワー』(1980、JICC出版局)。久住昌之は「江ノ島マイアミプロ」名義で寄稿。

※8:『かっこいいスキヤキ』(1983、青林堂)

※9:『花のズボラ飯』(2010-、作画・水沢悦子、秋田書店)

※10:『荒野のグルメ』(2015-、作画・土山しげる、日本文芸社)

※11:『そばもん ニッポン蕎麦行脚』(2008-、山本おさむ、小学館)

※12:『失恋ショコラティエ』(2009-、水城せとな、小学館)

※13:『駅弁ひとり旅』(2006-、監修・櫻井寛、作画・はやせ淳、双葉社)

※14:『めしばな刑事タチバナ』(2010-、原作・坂戸佐兵衛、作画・旅井とり、徳間書店)

※15:ふくろう喫茶『ふくろうのおうち』(東京都豊島区巣鴨 3-18-13 メゾン・ド・カメリア1F。)とげぬき地蔵尊前の横道を入ったところにある。

※16:ガングロカフェ『CAFE & BAR GANGURO』(渋谷区宇田川町26-9太田ビルB1F、)。渋谷センター街、カラオケ歌広場の地下。『CAFE & BAR VANDALISM』内。



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