アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門からなる公募展、文化庁メディア芸術祭が今年で20周年を迎えます。これを記念した企画展『変える力』が2016年10月15日から11月6日までの23日間にわたって、東京千代田区のアーツ千代田3331にて開催される運びとなりました。というわけで7月14日に開催された記者発表会に小誌取材班も行ってきました。会場は10月の展覧会の中心となるになるアーツ千代田3331は、先日取材に訪れた山田太郎さんの選挙事務所の真正面。方向音痴の筆者もさすがにコレは迷いません。地下鉄銀座線末広町駅から徒歩1分だし、JR秋葉原駅からも徒歩8分(中央通りが混んでいると体感で10分強)という余裕の徒歩圏内。他にも千代田線の湯島駅(徒歩3分)、大江戸線上野御徒町駅(徒歩6分)、JR御徒町駅(徒歩7分)、JR御茶ノ水駅(徒歩15分)が使えます。超便利だよね。
アーツ千代田3331は統合により廃校となった区立練成中学校の建物を利用したアートセンターで、ギャラリー、カフェ、居酒屋などがあり、入ってみるとモダンでオシャレな空間が広がります。この会場をどう使って展示するのか興味津々です。
記者発表会は、加藤敬文化庁文化部芸術文化課長による主催者挨拶から始まって実行委員の紹介、部門監修者による見所紹介、出展作家によるパフォーマンスという構成でした。
しかし、実行委員が超豪華。全員のお名前は開催概要で確認していただきたいんですが、マンガ・アニメ界からは、富野由悠季監督、里中満智子さん、しりあがり寿さんなどが列席。しりあがりさんは最後にライブドローイングをやっちゃうんでうが、富野さん、里中さんを含む委員のみなさんは、列席するためだけにいらしてる! なんと贅沢な! いや、委員のみなさんの心意気というか、力の入り方を如実に示しているというべきでしょう。
贅沢といえば、各部門のプレゼンテーションを行う監修者も、アート部門:関口敦仁教授(愛知県立芸術大学)、エンターテインメント部門:編集者としてもゲームクリエイターとしても知られる伊藤ガビン教授(女子美術大学短期大学部)、アニメーション部門:アニメーション研究家の氷川竜介教授(明治大学客員)、マンガ部門:本誌でもおなじみの伊藤剛教授(東京工芸大学)という贅沢な布陣。
各プレゼンについては割愛しますが、聞いていて感じたのは、4部門それぞれが重なり合っている部分があって、完全に切り離されているわけじゃないということでした。
■しりあがり寿無双!&カッコイイ義手に痺れたパフォーマンス
今回、一番注目を浴びたのは、先にも触れましたが、出展作家のパフォーマンスに登場した、しりあがり寿さんのライブ・ドローイングです。しりあがりさんは実行委員であると同時に『あの日からのマンガ』で2011年(第15回)マンガ部門の優秀賞受賞者でもあるわけです。ちなみにこの年の大賞は岩岡ヒサエさんの『土星マンション』でした。
さて、巨大な用紙の前に登場したしりあがりさん、一番最初に描いたのが『魔法少女まどか☆マギカ』のまどか! これまでの出展作品を描いていくというコンセプトです。制限時間10分。ものすごい勢いで、例のしりあがりさん特有の芯がなさそうでありそうな筆の線が次々とキャラクターを描き出していきます。もう、『ジョジョリオン』やら『失踪日記』の吾妻ひでおやら『サマーウォーズ』のおばあさんやらで画面が埋め尽くされていきます。ラストは赤い丸のメディア芸術祭のマークを太陽のように描き込んで完成! これでおしまいかと思えば、紙を引っぺがして(会場からは「もったいない!」の声が)、丸めてボールにして、ごにょごにょと作業して、紙のボールに青線を入れて『変える力』のシンボルマークに仕上げました。
もうひとつのパフォーマンスは2014年(第18回)エンターテインメント部門受賞作品『handiii』。同作は3Dプリンタで作られ、モーターで駆動する筋電義手で、軽量かつ安価。デザインは『攻殻機動隊』に出てきても似合いそうなSFテイストあふれるカッコよさです。従来型の義手が人間の皮膚に似た素材で覆って、むしろ目立たないデザインだったのに対し、個性の表現、ファッションとしての義手という画期的なもの。2014年の展示で観た時には「サイバーでオシャレ」というところに目が行きましたが、今回、実際に装着しているところを拝見すると、これがまたイイんですね。しかも筋電センサーを介して、かなり動く。握手したり、グラスを持ったりといった動作が自由にできてしまいます。これ、SF大会に持っていって実演したら、間違いなく星雲賞が取れると思います。SF者としては「技術とセンスがSFに追いついてきたー!」くらいの感動がありました。
後で装着者に質問したところ、デジカメに使うような小型バッテリー2本で駆動し、感圧センサーの働きで、例えば生卵を握り潰したりという「事故」が起きないようになっていること、動作を2回に分ければ人差し指を伸ばす(指さす)こともできることなど、本当にビックリです。
handiiiのデータはオープン化されており、より高度なセンサーを組み込んだバージョン、子供用の縮小バージョンなど、世界中で次々とバージョンアップやカスタマイズが行われています。近い将来、街角やコミケ会場でhandiiiに出会える日がくるかもしれません。
■部門監修者に訊く
閉会後、部門監修者のみなさんを囲み取材することができましたので、一番気になる「どんな展示を考えておられるのか?」ということを訊いてみました(以下敬称略)。
関口敦仁 アート部門はやっぱりその、技術的に20年ですごい変化をしていますので、そういったものが作品にどういう影響を与えたか、それと社会との関係がやっぱり面白く反映されているので、それを自分自身も経験したいなあと思います。
伊藤ガビン エンタテイメント部門は、さっきもお話ししたんですけども、基本的に個人的に体験するものがほとんどなので、それを展示してもしようがないから、さっきも立体的な図鑑って言いましたけど、そういう感じの、展示自体が仕掛けこみで作るんじゃないかなと思います。
——さっきも話に出ましたけど、エンタテインメントとアートって境界が曖昧ですよね。
伊藤ガビン アートとエンタテインメントってけっこう裏表にあって、同じ作家が言ったり来たりする場合もあるし、そこが面白いかなと。
関口敦仁 使っている技術もかなり近いので。
——それはアニメーションも共通ですよね。
氷川竜介 アニメーションの作家さんも映画やエンタテインメントに顔を出している場合もあるので。そのへんを上手く調整したい。上映だけではなく撮影素材の展示ってのもね考えていますけど、交渉中なので、なんとも言えません。特にアニメーションの場合はデジタルになってから素材が手描きのものじゃなくって、本物の風景を取り入れたり、CGを取り入れたり、色んなものが渾然一体となって作るようになってきています。そういうのも含めて、色んな素材がデジタルの中で共存しているような、『魔法少女まどかマギカ』が典型なんですけど、絵本的なものが動いたりしてるじゃないですか、そういうところを含めて展示できればいいなと思ってます。フィルムはフィルムで見せて、それが可能としている技術ってのは20年前と全然変わって違っていることを表現できればいいと。
——最後にマンガ部門はどうでしょうか?
伊藤剛 マンガは複製芸術で読まれて完成するのに何故か原画があると、しかも困ったことに原画を展示するとアウラがある。原画展もやりましたけどアウラあるんですよ。すごいあるんですよ。そこがひとつどうしたもんか? 原画展という扱いをするのか? そうではなくてメディアとかそういったものを含めたパッケージで見せるのか? そもそも最近の作家さんは原画が存在しないことがあるわけですね。そうなってくるとファインプリントを額装して展示しても嬉しくないだろうと。そこをどうするかという工夫が一つ必要になります。
——各部門のボーダーが入り組んだような展示になったら楽しいなと期待しています(笑)。ありがとうございました。