■児童ポルノ云々ではなく、問題はあくまでも自画撮り強要による被害
2月21日、第31期東京都青少年問題協議会第1回総会及び第1回専門部会が都庁本庁舎北塔42階特別会議室Aにおいて開催されました。
協議会は地方青少年問題協議会法第1条の規定に基づきいた東京都知事の附属機関です。これまで定期的ではなく必要に応じて30回開催されてきました。
青少年条例に関心のある方はご記憶のように、2010年の二次元規制を含む条例改正案のベースとなった2008年より開催の第28期協議会では一部委員から差別的、権力的な暴言が飛び出し、反発と批判を受けました。
この時のトラウマ、協議会に対する不信感が根強く残っていることは、今回の協議会開催のニュースを、一部の人々が大きな危機感を持って迎えたことからもわかるでしょう。
今回の協議会のテーマが「児童ポルノ等被害が深刻化する中での青少年の健全育成について」ですが、「委員の中に表現規制論者がいる。二次元規制まで踏み込むのではないか?」というわけです。
2月16日、都側のレクチャーを受けた、おときた駿都議は自身のブログで「東京都の『自画撮り規制』は、児童ポルノの二次元規制(表現規制)とは無関係です!」というエントリーを公開。まだ、「検討」の段階にすぎないこと、あくまでも自画撮り強要問題についてであって二次元規制には直結しないことを解説しました。
おときた都議のエントリーによって“静観”へと舵を切った人も多いと思います。もちろん、おときた都議も100%安心したわけではなく、当該エントリーは
また、今日のレクチャーの中で「表現規制とは無関係」「誤解を招かないよう、十分に配慮していく」という説明はありましたが、委員会質疑でこのあたりの確認もしっかりと取っておく予定です。
当初の方向性と異なる動きが出ましたら、またご報告させていただきます。
と結ばれています。第28期協議会及び“非実在青少年条例改正案”は多くの人々が知らないうちに進行し、ギリギリの段階でレポートする人が現れ、そのレポートを読んだ有識者が警鐘を鳴らしてはじめて炎上し、規制反対運動へとつながっていきました。行政に対する無関心は決していい結果を生みません。
第28回協議会と非実在青少年条例改正案が惹起した騒動は都側にとっても衝撃でした。知事提案の条例改正案が通らなかったのは大変な事態です。都側もそうした経験を踏まえ、委員構成を見ても規制強化に反対または慎重という立場であろう委員をも選任し、バランスを取っています。
とはいえ、今後の協議会の方向性によっては、青少年自身の表現する権利の制限、過度の自主規制への圧力、ネット規制(監視)の強化など、本来の目的である青少年保護から乖離した条例改正へ進む可能性は残ります。また法律ではなく条例でどこまで自画撮り被害に対応できるのかという点も重要でしょう。
また、自画撮りによる青少年の裸体などの性的な実写画像を“児童ポルノ”と呼ぶことは児ポ法の定義上、間違ってはいませんが、青少年保護、健全育成の見地からは不適切と言わざるを得ません。
何故なら、児ポ法では青少年による自画撮りは、立件されるかどうかは別として“製造罪”に該当し、被害者が加害者の共犯とされる恐れがあります。また、この矛盾を悪用して自画撮りを送ってしまった青少年を
「児童ポルノ禁止法違反として警察に通報されたくなかったら」
と脅迫し、さらに自画撮りを送らせるという手口に利用されるからです。
■小池都知事からの諮問で協議会が始まる
さて、協議会当日、本誌取材班は定刻30分前に会議室入りしました。協議会の会長である小池都知事が出席するということもあり、入口から左側に用意された取材席はテレビカメラの放列で埋まっています。
定刻が近づくにつれ、テレビ以外の取材陣、傍聴人が次々と来場。その中には、山田太郎前参議院議員、コンテンツ文化研究会の杉野代表、ネット中傷の被害者の立場からリベンジポルノ被害者ケアを訴えるスマイリーキクチさんの姿も。
ほぼ定刻通りに小池都知事が入室。委員紹介に続いて副会長に古賀正義委員(中央大学教授)が選出され、小池都知事の会長挨拶が行われました。挨拶に続いて、小池都知事が諮問事項を読み上げ、協議会に対する“諮問”が行われました。これは石原都知事時代もそうでしたが、都知事と会長は同一人物なので「小池さんが小池さんに諮問する」という奇妙な形になります。実際には諮問の書類は小池都知事から古賀副会長に手渡されました。
都知事は会長として常に出席するわけではなく、今回も“諮問のセレモニー”の後、退席されました。最高責任者は会長ですが、実際に協議会を司るのは古賀副会長です。
この後、議事進行としては“意見交換”ということになるのですが、初回ということもあり、都議会議員の委員諸氏からそれぞれの所感と今後の取り組みについてのスピーチという形になりました。
■何故、青少年は自画撮りをしてしまうのか?
総会での白眉は、坂元章委員(お茶の水女子大学教授)によるプレゼンテーション『子どもの発達過程と自画撮り被害』でした。自画撮り被害の実態報告だろうと思って拝聴しておりましたら、それだけに終わらない中身の詰まったプレゼンでした。
まず被害実態についての紹介ですが、40代の男性が大学生になりすまして女子中高生1600人と無料通話アプリで知り合って約30人に“わいせつな画像”を送らせたとか、30代の男性がネットで知り合った女子中学生に裸の写真を数回送らせ、ホテルで“みだらな行為に及んだ”とか、40代の男性が仲間から教えられた手口を使って、女子小学生に無料通話アプリの有料スタンプをプレゼントし、見返りに“裸の画像を送らせた”とか、もう「キサマら、それでも人間か!」と言いたくなるような話です。
ごく一部の事例だと言う人もいるでしょうが、リアルに被害に逢った青少年にとっては地獄のような事件です。半永久的に加害者に他人には見せたくない写真を所持され、逆らったり、逃げたりしたらリベンジポルノとして流出するかもしれません。レイプと同等の非道な犯罪です。
続いて、加害者の手口が紹介されましたが、あまりにもひどい話なので、ここでは書きません。脅迫から、なりすましまで、単純ですが青少年にとっては効果的な手口を駆使して加害者は写真を集めます。一旦、足を踏み入れると泥沼で、長期間にわたって加害者の要求はエスカレートし、レイプにまで及びます。
では何故、青少年は見ず知らずの人間に自画撮り写真を送ってしまうのでしょうか? ネットの普及、スマホの性能向上などにより、簡単に撮影できて、簡単に送信できて、しかも一対一で他人が介入しにくい上に、お互いに匿名だからという幻想も働きます。
坂元委員のプレゼンはさらに「何故自画撮りして送ってしまうのか?」という被害者側の内面に迫っていきます。まず、発達過程にある青少年は“リスク志向行動が盛んになる”という研究があるそうです。これは昔から言われる「若気の至り」「若さ故の暴走」とほぼ同じと考えていいでしょう。「こんなことをやっちゃったら、周囲に迷惑をかけるかも/自分も大ケガをするかも/地元に住めなくなるかも/後で恥ずかしいかも」という歯止めがかからないというか、将来のデメリットを過小評価してしまいます。
これは、ある意味動物的な反応です。つまり、親離れさせるために、将来への危機感というハードルを下げる仕組みが働くわけです。これには青年期にピークとなるドーパミン(脳内麻薬の一種)分泌が関係しているのではないかというお話です。自分の若い頃を思い出しても、色々やらかしてます。マジ黒歴史。
成熟すれば衝動と抑制のバランスが取れるようになり、ムチャをしなくなるのですが、現役の青少年にはそんな理屈は通じません。いや、通じていても衝動は別なんですね。しかも個人差も大きい。
では、そういう衝動を起こさせないために制限すればいいのでしょうか? スマホやPCのネットへのアクセスを制限する? 特定のサイトをブロッキングする? 親がしっかり監視する? いやいやスマホは18歳になってからにする? 情報遮断は一定の効果はあるでしょう。しかし、リスクをコントロールする能力を身に付けるためには、経験による知識の蓄積もまた重要です。
坂元委員はプレゼンの最後をこう結びます。
自画撮り被害の問題に対応するためには、安全な環境の提供と、教育啓発のどちらの取り組みも無視できないと考えられる。(配布資料より)