3月16日、文化庁メディア芸術祭大賞記者発表会が開催されました。今回からスケジュールが大幅に変わって、会場も国立新美術館からオペラシティ内ICCへとチェンジ。スケジュール変更に関しては主催者側発表では「応募作品が爆増して、丁寧な審査のために時間が必要になったから」だそうです。
そう、メ芸は応募型のコンテストなので、世界中から大量の応募があるんですね。実際、これまで審査に携わった方々によりますと「全部目を通すのは時間的にも体力的にも大変」だそうで、さすがに手分けするようになったみたいですが、応募がオーバーフロー気味なのは変わらないようです。
で、この応募型というのがミソで、どんな傑作でも応募しなければ選考対象にはなりません。逆にアマチュアが初めて作った同人誌(電子もアリ)、同人音楽、同人ゲームでも思い切って真価を問うこともできちゃいます。同人がイキナリ大賞、優秀賞ってのは可能性低すぎですが、優れた作品であれば審査員の目にとまり、推薦作品に選ばれます。
会場について報道資料が配付されるまで、受賞作どころか、候補作もわかりません。て、ゆーか個人的に発表のドキドキ感を味わいたかったので、資料を見ずに会場入りしました。そうすると、岡崎体育さんみたいな人がいて、ほんとに岡崎体育さんでした(なんなんだ)。エンタメ部門の新人賞だったんですね。ハンパない場違い感(個人の感想です)があって好感度大。
■山からジャズへ
まずはマンガ部門から見ていきましょう。ウチはマンガ専門なのでマンガが優先なのはご容赦ください。マンガ部門大賞の本誌予想は、正確には佐藤副編集長の予想は『こち亀』でしたが、見事に外しました。個人的には功労賞の方が当確だと思っていたんだけど、そっちも外れました。応募してなかったようですね。 大賞を受賞した石塚真一さんの『BLUE GIANT』はジャズに魅せられ、ジャズの世界に入っていく若者たちの物語です。正直、連載開始時にはビックリでした。
「あの『岳 みんなの山』の石塚真一が音楽マンガ!」
もちろんビックリしたのは、筆者だけではありません。記者発表後の囲み取材では、最初の質問が「何故、山からジャズへ?」でした、筆者も負けずに「先行の音楽をテーマにしたマンガは意識したのか?」と質問。お答えをざっくり要約すると、「山もジャズも好きだからマンガに描きました。先行する素晴らしい作品が多くあり、音楽をテーマにすることに勇気を与えてくれました」というお答え。音楽をテーマやモチーフとするマンガには傑作が多いんですよ。超ヒット作『のだめカンタービレ』、『ピアノの森』、『マエストロ』、『BECK』、おお、どんどん思い出すぞ! 激戦区とは言えないまでも、マンガ読みで音楽好きというメンドクサイ読者もいてヘタをすると叩かれて炎上する危険領域でもあるわけです。そういえば「山」だって山岳マンガの傑作は幾つかありますし、専門性の高い分野だったですね。そこに『岳 みんなの山』で入っていってしまう。長くなりそうなので、このへんの作家論っぽいことは本誌で書きます。
『BLUE GIANT』全10巻完結。現在は続編の『BLUE GIANT SUPREME』がスタートしている。
■どれが大賞でもおかしくないような優秀作の激戦
さて、マンガ部門優秀賞は今年もバラエティ感満載で、激戦だった模様です。ユン・テホさんの韓国マンガの翻訳版『未生 ミセン』、松本大洋さんの、もはやアートの文脈で捉えられるべきなじゃいかと思ってしまう『Sunny』、筒井哲也さんの問題意識を叩き付けた『有害都市』、昨年11月にお亡くなりになった高井研一郎さんのサラリーマンマンガ『総務部総務課山口六平太』といった錚々たるラインナップ。審査委員も大変だっただろうなあ。
■注目の新人賞と審査委員会推薦作品
新人賞は、灰原薬さんの『応天の門』、清家雪子さんの『月に吠えらんねえ』、畑優以さんの『ヤスミーン』の3作。いずれもノーチェックだったので、これから読みます。
審査委員会推薦作品は『第20回文化庁メディア芸術祭 審査委員会推薦作品一覧』(PDF)を参照してください。マンガ部門は全29作。商業出版物に加え、同人誌、オンラインマンガ、アプリも推薦されています。
■エンターテインメント部門とアニメーション部門はほぼ予想通り
エンターテインメント部門は『シン・ゴジラ』が大賞を受賞。順当と言えば順当ですが、この部門は映画部門ではなく、他の三部門に入らない作品をフォローする部門で、優秀賞にはゲームアプリ『Pokémon GO』(Pokémon GO制作チーム)、微弱な電気で味蕾を刺激して塩味を感じさせるガジェット『NO SALT RESTRANT』(川嵜鋼平/中野友彦/中村裕美/橋本俊行/宇田川和樹/天野渉)、VRシステムの『Unlimited Corridor』(『Unlimited Corridor』制作チーム)、アート部門でもアリだと思うロボットを使ったインスタレーション『デジタルシャーマン・プロジェクト』(市原えつこ)と多士済々。シンゴジ以外は観ていないので、秋の展示会が楽しみです。
■アニメーション部門は『君の名は。』がぶっちきちぎり?
こちらも順当すぎるくらい順当な大賞ですね。筆者的には『この世界の片隅に』との一騎討ちか? と思っていたのですが、『この世界〜』は第20回の応募期間が過ぎてからの公開だったのでした。第21回大賞の有力候補になるはずです。優秀賞には、問題作というか深い問題を提起した『聲の形』 (山田尚子監督)、長編アニメ『父を探して』(Alê ABREU [ブラジル] )、短編アニメ『A Love Story』(Anushka Kishani、NAANAYAKKARA [英国] 、短編アニメ『Among the black waves』(Anna BUDANOVA [ロシア])が選ばれました。海外作品は未見の方の方が多いと思いますが、9月に予定されている受賞作展示では上映されると思います。
■アート部門も受賞作品展が楽しみ
アート部門大賞はインスタレーション『Interface I』(Ralf BAECKER [ドイツ])。アート部門は優秀賞のメディアパフォーマンス『Alter』(『Alter』制作チーム)を除いて記者発表会ではプレゼンが行われなかったので、受賞作品展をお楽しみにということになります。概要については『第20回文化庁メディア芸術祭大賞受賞作品・受賞者一覧』(PDF)をご覧下さい。概要と写真を見るとやはり大賞受賞作は直流モーター192個やゴムヒモを使った、大部分がアナログというカラクリ仕掛けっぽくて面白そうです。どんな動きになるのか観たいですね。動画とかないのかな?
今後も追加情報があれば、お知らせしていきますし、マンガ関係はインタビュー企画も進める予定。
ただ、3月発表で半年後に作品展というのはちょっと間が空きすぎですね。
ある意味過渡的なスケジュールなのでしょうが、21回以降どんな形になるのかを含め、取材を続けます。(永山薫)