第31期東京都青少年問題協議会第4回専門部会レポート

■答申素案が発表される
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 5月11日、第31期東京都青少年問題協議会第4回専門部会が東京都庁にて開催されました。今回は「答申素案」、つまり知事に提出される「答申」の原型が発表され、議論が交わされました。
 と言っても、事務方の重成青少年課長が多少解説を加えつつ「答申素案」を朗読する部分が約8割、質問や意見交換が約2割という感じです。
 「答申素案」は、これまでの協議会専門部会でのプレゼン、講演、意見交換を要約し、まとめ上げたもので、目新しい部分はほとんどありませんでした。近日中に都庁公式サイトの「東京都青少年問題協議会 議事録 第31期」で公開されるはずですので、ここでは概略を説明しておきます。あくまでも速報版ですので、間違いがあればご指摘ください。

■答申素案を読む
 全2章からなる答申素案ですが「第1章・現状と課題」は、タイトル通りの内容で、これまでの協議会と専門部会で発表された諸情報の集約です。議事録の発表分と配布資料に目を通している人なら読む必要すらないくらいですが、逆に言うと答申素案にコンパクトにまとまっているので、初めての人にも理解しやすいでしょう。

 ざっきり言うと、急速なスマホとネットの普及により、自画撮り被害が増加傾向にあること、また、加害者と被害者の出会いはSNSが95%強となっていることが前説的にあって、この背景として「簡単に自画撮りができて、保護者に気付かれにくいこと」「自画撮りが日常化していること」「加害者がネットを利用して効率的に被害者をさがせること」などがあると示されます。

 次に自画撮り被害防止に関して、現行法(児童ポルノ禁止法、刑法(脅迫罪、強要罪))でどこまで適用できるか? という点を整理しています。児ポ法に未遂犯がないこと、詐欺的手口には強要罪が適用できないことなど、現行法の限界を示しています。続いて啓発や相談といった、都、国、民間による現行の対応法が列挙されています。

 啓発については相当重要だなというのが筆者の印象ですが、現状では「そんな窓口があったんだ」というレベルで、周知が足らないんじゃないかと思いました。特に子供と最も近いはずの親への啓発が大事です。また、考えるまでもなく加害者の大部分は大人です。子供の判断能力の低さを前提とするならば、まずは大人へのアプローチが肝要です。

「第2章・具体的な方策」は第1章を踏まえた、いわば「素案」の本編と言ってもいい内容になっています。ここでは、自画撮り被害を時系列に、(1)悪意のある者と青少年との遭遇・やりとり開始段階、(2)青少年への撮影・送信の働きかけ段階(3)青少年が画像を送信した後の段階の3段階に分けて、それぞれの段階に対する対応策(a)普及啓発、教育、相談等対応、(b)技術的対応、(c)規制等対応を挙げています。

 (1)「やりとり開始段階」は、出会っただけ、やりとりしているだけですから、違法性がありません。被害を防ぐためには特に(a)普及啓発、教育、相談等対応に力を入れるしかありません。また、(3)の「画像送信後」は現行の児ポ法、刑法などが適用できます。

 (2)「働きかけ段階」は、犯罪としては未遂の段階なので、現行法では対応が困難です。そこで(c)規制等対応が論議されることになります。(1)(3)でも規制についての言及がありますが、(2)では重点的に議論されたのか文章量も多くなっています。

■青少年条例改正でどこまで規制できるのか?
 今回の協議会と専門部会で最も注目され、あるいは懸念材料となっているのが自画撮り被害の防止(抑止)のために行われるであろう青少年条例改正が、どこまで実効性を持ちうるのか? ネット規制強化や表現規制強化に繋がらないのか? ということです。

 まず、現行法とバッティングしないことが前提となります。その上で、現行法では想定されていなかった未遂罪部分を中心に条例で規制することになります。しかも実効性がない努力義務みたいな条例では意味がありません。違反者にはペナルティが科せられないと抑止できません。しかし、罰則化という強制力を持たせるためには厳密な線引きが必要となります。答申素案では、青少年に自画撮りをするような働きかけが「一定の状況。様態で行われるもの」と限定し、具体的には次の5つの方法を挙げています。

(1)青少年が拒絶しているにもかかわらず勧誘する方法
(2)欺き、又は誤解させる方法
(3)威迫する方法
(4)対償を供与し、又はその供与の約束をする方法
(5)その他困惑させる方法

 これは成年者が加害者であった場合、罰則が加えられますが、加害者が未成年者であった場合には「違反」とはなっても罰則は加えられません。これは青少年条例の「青少年の健全育成」という趣旨に基づいた考え方です。

 専門部会委員の多くが法律専門家であり、以上の規制対象については相当に練られています。禁止行為が明確でなければならないこと、主な加害者である大人の責任を問うために罰則をもって禁止することが適当であること、ネットを介した勧誘行為を規制することが妥当であること、児ポ法との関係で条例規制が許容されること、関係機関との連携、他府県への条例改正要請、法整備の要望等々について、詳細に解説されています。

 専門家による議論が重ねられた分、抑制的な答申素案になっていると考えます。ただ、やはり規制に関しては幾つかの疑問と危惧が残ります。罰則を盛り込んだ規制は確かに必要かもしれませんが、では、誰が自画撮り画像の撮影を強要し、あるいは詐欺的手法で入手しようとしている「現場」を押さえることができるのでしょうか? 

 相談窓口などの関係機関に被害に遭いそうな児童からの相談があれば対応は可能でしょうが、そうではない場合は、LINEやSNSのメッセの監視が必要になってしまいます。

 これはSNS等の運営側の協力(ガイドラインに利用者が監視を許諾する旨の条項を追加するなど)を要請する形式になると思いますが、私的検閲に他なりません。たとえその監視がロボットによる自動監視であったとしても同じです。これが許容されには余程の事情が必要だと考えます。

 また、他の道府県への条例改正や国への法整備の要望は、条例の全国化、すなわち青少年条例の親法としての青少年健全育成基本法(青健法)へのステップになるのではないかという危惧が拭えません。

 専門部会でもたびたび、啓発、教育、周知の重要性について、意見が交わされています。個人的には規制強化以前に啓発をより強化し、それで成果が見込めないようなら、改めて規制を考えるべきだと思います。

 評価すべき点として今回も「児童ポルノ」という文言の問題点が指摘され、特に啓発時にはより適切な文言が必要ではないかとの提言があったことを付け加えておきます。

 16日には素案をベースにした答申案が出される予定です。素案がどうポリッシュアップされるのか? さらに答申後の条例案がどのような形になるのか、まだまだ目が離せません。(永山薫)


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