マンガ論争10取材報告:表現規制の現状を語る楽しい講演会 at 京都大学11月祭・前編

関西圏最大規模の京都大学11月祭。ほんと人大杉で、コミケ3日目よりは多少マシだけど、移動が大変。

関西圏最大規模の京都大学11月祭。ほんと人大杉で、コミケ3日目よりは多少マシだけど、移動が大変。

■京大11月祭は人で一杯
 こんにちわ、永山です。11月23日に開催された「表現規制の現状を語る楽しい講演会 at 京都大学11月祭」に行ってきました。実は、ちょっと早起きして、嵐山に寄り道したんですが、朝9時台なのに、なんだよこの人出は! というくらい人大杉。紅葉も、もう一つでしたね。月末が狙い目かな? とか、ぐだぐだ考えながら、嵐山→桂→河原町と乗り継いで、さらに京阪線に乗り換えて出町柳から徒歩で百万遍→京大正門へと向かいました。
 こちらもまた人大杉ですね。近隣の女子大などの模擬店も出てて、チュロスとか揚げ饅頭とか焼きそばとかリンゴ飴とかキムチ鍋とか豚汁とかフランクフルトとか売りまくっておりまして、場所によってはコミケ3日目の勢い。
 講演会開場までにサクっと学内を偵察。たまたま道に迷って、評論系の漫研の部屋を発見。会誌を購入。このサークルもコミケにくるそうですが、評論島なので西館。再会は難しいかも。さらにウロウロしていると和服姿の白田先生と遭遇。なんとサークル・クラッシャー研究会の部屋ですぜ。
「見所のある若者たちですね」
 と高評価しておられました。むむ〜、俺にはわかんないよ。
 てな感じで時間をつぶして、いるうちに開場の時間が迫り、会場入り。主催者とご挨拶したり、ハンディカムをセットしたり、知り合いに声かけたり、取材章取りに走ったり色々大変。会場は満席とまでは行かないものの、8割方埋まっております。京都精華大学やマンガ学会など学者系がやや目立つ。もうちょっと学生に来て欲しかったな。ただ、同じ時間帯で円城塔さんの講演があったり、スズカンさんの講演時間も若干かぶってたりと、けっこう相殺されてしまったのかも。俺も一応SF野郎なので時間がずれてたら円城さんの講演に行ってたと思う。
■高山佳奈子(京大教授)講演ルポ
高山佳奈子京都大学教授。白田准教授に対抗して急遽和服で登場。

高山佳奈子京都大学教授。白田准教授に対抗して急遽和服で登場。


 さて、開演です。一番バッターは京都大学教授の高山佳奈子先生。今回は白田先生が和服で登壇という情報をキャッチして、こちらも和服で登場。ファッションを合わせるという「礼儀」なのか、負けず嫌いなのかは知りませんが、お二人で、お正月先取り状態。
 てなことはどうでもいい。ここからは「マンガ論争10」の下書きを兼ねて、ちゃっちゃっと行きますよ。
 高山先生は快調にスタート。現行の児童ポルノ禁止法を刑法学者の立場から条文に即してざっくりと解説。このあたりは「おさらい」という感じ。同法第2条の「定義」第1項には実在児童のみが保護の対象となっていることを指摘。第3項の「児童ポルノ」の定義では1号が「強制ワイセツ」「強姦罪」に、2号が「児童福祉法」に当たる法類型だと説明。かねてより問題視されている3号に関しては「判断に曖昧なところがあり、非常に広い範囲にあてはまるおそれがある」とバッサリ。この問題に詳しい人なら耳タコかもしれないが、3号ってのは、
「衣服の全部又は一部を着けない児童の肢体であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」
 という解釈次第では17歳アイドルのセミヌード、ランジェリー姿などもアウトになる可能性があるという条文だ。

 ちなみに、最近のファッションは、一昔前なら「下着」だったものがどんどんアウター化している。キャミソールのよーなブラウスとかさ。そういうのはどうするんだろう。それと筆者の私見だけど、児童(0歳から18歳の誕生日一日前まで)の裸体と言われても色々あるでしょ。例えばウチに「2歳の男児の全裸写真」があるわけです。オレの写真ですけどね。これ、定義のうち「児童」「全裸」の要件は満たしている。問題は「性欲を興奮させ又は刺激するもの」なのかどうか? ってこと。全人口の1%以下かもしれませんが、ペドファイルの人はいます。その中には、2歳のオイラの裸に興奮するという人がいるかもしれない。ただ、世の中の99%以上の人にとっては単なる裸のガキの写真であって、親族以外にはどーでもいい写真であります。しかし、ごく一部の人を興奮させる可能性があるわけですから、児童ポルノ認定される可能性はゼロではない。

 まあ、これは極端な例ですが、何に興奮するかは、ものすごく個人差があるし、どこまで行っても自己申告の世界。つまり、「そもそも『興奮』『刺激』なんて内心の反応を第三者が判断すること自体オカシイ。そんなもん尺度にならんだろう」と考えるわけです。俺個人としては児童ポルノの要件は全裸か半裸かエロいかエロくないかなんて尺度ではなく「性虐待被害の有無」に絞った方がスッキリすると思う。

 さて、ちょいと私見に走ってしまいましたが、高山先生の講演に話を戻します。
 続いては、いよいよ与党改正案の批判。ここでの問題はまず改正案第6条の2の「児童ポルノの単純所持禁止」と、それに連なる第7条の処罰規定「性的好奇心目的所持処罰化」の部分。これに関して高山先生は「目的罪」の解説から入ります。つまり目的を罪とする場合は、その目的が違法性が高いか、責任が重いかのどちらかが要件になる。例えば通貨偽造罪。芝居の小道具として「お札のようなもの」を作るのは偽造罪にならないが、使うことを目的として偽札を作ると重い処罰が科せられる。児童ポルノはどうか? 自分の密かな楽しみを目的として所持しているだけでは児童に対する性虐待が増加しない。なので、性的な目的だからといって処罰の対象にするのは無理があるわけです。もちろん、転売して儲けようとか、無料で配布して同好諸氏を喜ばそうなんて目的はアウトだ。性的目的所持ではないが、販売や公然陳列は重罪になる。ということを考えると、またもや私見ですが、性的好奇心目的所持処罰化は屋上屋を架しているとしか思えませんね。以前の民主党案にあった有償取得や頒布的な取得を罰するという方がわかりやすい。

高山教授は随所にギャグを投入。「外道」に場内爆笑。

高山教授は随所にギャグを投入。「外道」に場内爆笑。

 高山先生の講演は続く。大きく切り分けると、まず「改正案は憲法の様々な条文に抵触するおそれがある」という法学者としての批判。表現規制に踏み込みかねない附則についてだけど、当然これは「表現の自由」にかかわるし、誰にも迷惑をかけずに楽しむという「幸福追求権」の侵害にもつながる。また性的好奇心を目的とする所持の処罰化は「内心の自由」を侵害しかねないわけだ。次に「過剰な制限はむしろ犯罪を増加させる危険性が高い」ということ。国際的な犯罪統計を見ても性的な規制が強い文化の国家ほど性犯罪発生率が高く、性的におおらかな文化ほど性犯罪発生率が低い。統計がどこまで当てになるかは考える必要はあるだろうが、それにしても日本の治安の良さは世界でもトップクラスだ。そこに過剰な表現規制が加えられると、その抑圧がリアルな犯罪を誘発するおそれがある。つまり、高山先生のマイキャラである「赤さん」が、
「表現規制で児童を守ろうなんて話が真逆だね!」
 と言う通り、創作物規制によって児童が救済されるどころか、逆に安全が脅かされる事態にもなりかねない。
 もちろんあくまでも可能性の話なんだけど、マンガやアニメが実在児童の安全を脅かす可能性とどちらが大きいのかということは考えた方がいいと思いますよ。

 というわけで前半をざっくりまとめてみました。「マンガ論争10」の下書きを兼ねているので、変なところがあれば指摘してくださいね。
 後半の白田先生の講演レポはもうちょい待ってください。


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