「出版の自由の新たなる危機 — ワイセツからヘイトスピーチ規制まで — 第43回出版研究集会分科会4」アフターレポート

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 10月21日、出版労連ビルで開催された「第43回出版研究集会分科会(4)」に参加しました。
 分科会のお題は「出版の自由の新たなる危機 — ワイセツからヘイトスピーチ規制まで — 」。進行役はルポライターの昼間たかしさん、講師は弁護士の山口貴士さんです。山口さんは最近、カリフォルニア州弁護士の資格も取り、今後ますます国際的な活躍が期待されます。
 さて、今回は、山口弁護士が、自ら担当した「CG児童ポルノ裁判」「ろくでなし子裁判」などを概説し、表現の自由と公権力の介入について、海外の表現規制状況や内外の報道のあり方について語り、さらにはヘイトスピーチ規制についての意見を述べました。
 詳細な内容については本誌でもすでに紹介していることなので、詳しく知りたい人は是非とも本誌をお買い上げください(宣伝→通販ページ)。もちろん、もう少し詳しいレポートは冬コミ発売予定の本誌『マンガ論争16』に掲載します(宣伝)。
 ……と宣伝だけでは怒られそうなので、ダイジェストしておきましょう。

◆二つのわいせつ裁判

 まず、最初のお話は「CG児童ポルノ事件」についてです。事件の概要は、故・清岡純子さんの少女ヌード写真集『潮風の少女』など(パワポでは16冊が例として挙げられた)の写真を手本にCGで描き起こした作品をCG集『聖少女伝説』『聖少女伝説2』として販売したところ、児童ポルノ禁止法違反で起訴されたというもの。起訴されたのはその内34枚でしたが、裁判で児童ポルノと認定されたのは3枚のみでした。その結果、求刑「懲役2年&罰金100万円」のところ「懲役1年(執行猶予3年)&罰金30万円」の有罪判決が下されました。判決に対して弁護側が控訴し、現在も係争中であり、おそらく最高裁まで裁判闘争が続くでしょう。
 裁判所は「元の写真の人物が実在するか?」「元写真の人物は18歳未満の児童だったか?」「元写真とCGは同一性があるか?」ということを踏まえて認定を行ったそうです。その結果、31枚のCGが児童ポルノとは認められませんでした。

 次が「ろくでなし子事件」です。結論としては「デコまん」、つまり、まんこを型取りして作成した複製まんこにデコレーションを施したアート作品の展示に対する「わいせつ物陳列罪」については無罪。女性器の3Dスキャンデータの頒布については有罪で、求刑「罰金80万円」が「40万円」の有罪判決を受けました。検察側、弁護側の双方が控訴中で、こちらも最高裁まで決着を見ることはないでしょう。
 裁判所は「デコまん」はデコレーションされることによって「一見して女性器を象ったとの印象を抱くことまではなできない」と判断しました。しかも芸術性、思想性、反ポルノグラフィックな作品として認めました。これは山口弁護士に言わせると「まあ、モザイクがかけられているというような判断でしょうね」ということです。その点、3Dデータは「実際の女性器を彷彿させるもの」としてアウトになりました。この判断理由の一つとして「データの受領者が、本件各データに女性器の皮膚様の着色をすることでよりリアルな女性器の3Dデータを創作することも可能である」が挙げられていたましたが、かなり無理矢理ですね。「加工されるかもしれないからアウト」なんて仮定法で有罪判決が下されるとしたら、なんでも有罪にできてしまいます。変な例かもしれませんが、松茸のイラストを「男性器の皮膚様の着色をすることでよりリアルな男性器のイラストを創作することも可能」として処罰できるということです。

◆ヨーロッパは自由に対する意識が鈍磨している
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 次に山口弁護士は、ろくでなし子事件の報道について触れ、海外報道では、ろくでなし子事件を被告に好意的な論調で報道したのに対し、二次元規制に関しては「なぜ日本は児童ポルノを禁止しないのか」という真逆の論調での報道になることを指摘。欧州人は「自由に対する意識が鈍磨」していると鋭く批判しました。筆者もニコニコ大会議で「欧米の方が間違っている。彼らを正しく導いてあげなければならない」と指摘しました。そもそも、自由、平等、博愛という「すばらしい思想」を日本にもたらした欧米が、児童保護という名目で表現を規制しているのは原理的に矛盾しています。私見ですが、その根っ子には欧米中心思想(東洋蔑視に基づいた歪んだ啓蒙思想)、一神教的で排他的な倫理観、男性性に対する偏見があるのではないでしょうか?

 脱線しました。山口弁護士は続いて、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、スウェーデンにおける「非実在青少年規制」の実際例を挙げた上で、ほとんどの国では非実在(二次元)規制が行われており、実在規制オンリーなのは日本とアメリカだけで、「児童全般の尊厳」を保護法益としているとしか見えない規制が多いことを指摘しました。この問題は、山口弁護士が常に批判している「集団的人権論」や、ヘイトスピーチ禁止法に対する危惧に繋がっていきます。そのあたりの詳細は『マンガ論争16』にてレポートしますので、お楽しみに(超宣伝)。

(永山薫)


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