「永遠のソール・ライター」展レポート

「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」
■会期:2020年1月9日(木) ~ 3月8日(日) 休館日:1/21(火)・2/18(火)
■会場:Bunkamura ザ・ミュージアム(東京/渋谷・東急本店横)
■お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

■公式HP:https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/20_saulleiter/

ソール・ライター 《帽子》 1960年頃、発色現像方式印画
ⒸSaul Leiter Foundation

 まず、上の「永遠のソール・ライター」展のポスターや図録の表紙にも使われている『帽子』(写真上)。筆者が最初に連想したのが印象派の絵画だった。雪の日の窓越しに撮影された人物像は結露によって輪郭がぼやけ、シルエットのように見えるが、左側に重なるイエローキャブと、人物の背中ごしににじむ赤が、不思議な華やぎを与えている。冬の寒さだけではなく、人物の帽子を直す仕草がまたいいではないか。彼は誰かを待って佇んでいるのか? それとも通りすがりに立ち止まって帽子の庇に手をやっているのか? 次に撮影者が暖かい室内に位置にいることを思い至ると、撮った瞬間のぬくもりまでが伝わってくる。

 ソール・ライターの写真は刺激的だ。
 いわゆる劇的な写真ではない。ファッションフォトもあるが、多くはニューヨークの街を撮ったスナップ・シューティングだ。

 筆者も仕事と趣味で大量の写真を撮る。『マンガ論争』のインタビューに行けば、インタビューイのポートレートを撮る。イベント取材でも必ず撮る。会場は外も内も取る。散歩すれば風景や樹や花や鳥や猫や看板や建物を撮る。記録として、記憶として撮る。まあ、ちょいと色気を出して、表現として撮ることもある。ただ、素人には限界がある。花の写真に限定しても数千枚は撮ったけれど、似たような日の丸構図が多い。風景写真だって、手前に桜の花の枝や紅葉の枝が入って遠景に山がくるみたいな、恐らくプロアマ合わせて世界で数億人が撮っていそうな、いや、撮っているに違いない凡庸な定番写真だ。
 既成概念と言ってもいい。「かくあるべき」と「これはいけない」みたいな規範が働いてしまう。
 その点、ソール・ライターは自由だ。例えば次の「レミィ」。

ソール・ライター 《レミィ》 1950年頃、ゼラチン・シルバー・プリント
ⒸSaul Leiter Foundation

 この光景にぶつかった時。縄跳びしている少女の姿に目が止まった時、筆者ならば左の前景の人物は邪魔に思ってしまう。躍動する女の子を中心にした絵作りを考えてしまう。「ちょっとどいて」「さっさと通りすぎて」と言いたくなる。

 だけどソール・ライターはシャッターを押す。その結果、遠近が圧縮され、大きな人物の鼻に妖精がキスしようとしているようなブレッソンもびっくりな、いや、コナン・ドイルもびっくりな「妖精写真」めいた作品が生まれてしまう。

ソール・ライター 《ソームズ・バントリー》 1950年代、
発色現像方式印画 ⒸSaul Leiter Foundation

ソール・ライター 《赤い傘》 1958年頃、発色現像方式印画 ⒸSaul Leiter Foundation

 他にも紹介したい作品が一杯ある。赤い傘の一部が写り込んで、それが絶妙な差し色になっていたり、バスの車窓から窓枠にコマ割りされた光景だったり、スローシャッターで被写体ブレが速度を演出するクルマの写真だったり、前景を覆うトラックの車輪の隙間から見える靴だったり、雪道の足跡がリズミカルな俯瞰だったり、オヤクソクに縛られない「いい絵」なのだ。現代絵画的な作風だなと感じて観ていたら、絵画作品も展示されていて、なるほどなと思った。とはいえ、作為的に演出しているわけではない。それぞれがそれぞれの決定的瞬間だ。

 端的な感想は「こんな風に撮れるんだ」「こんな風に撮っていいんだ」ということだ。
 「永遠のソール・ライター」を観覧して、そんな風に刺激されたら、「永遠のソール・ライター」展公式 フォトコンテスト」に参加してみるのも面白いだろう。
 同コンテストへの応募はインスタグラムのハッシュタグで行う。
 詳細はリンク先の「永遠のソール・ライター」展公式 フォトコンテスト」ページを参照して欲しい。

ソール・ライター 《セルフ・ポートレート》 1950年代、ゼラチン・シルバー・プリント
ⒸSaul Leiter Foundation

■読者プレゼント
「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」ペア招待券5組
応募締切:2月15日
応募方法:プレゼントに応募するをクリックし、住所氏名をご明記の上、メールをお送りください。


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