■都庁青少年課へゴー
永山です。27日は東京都の青少年課にお邪魔してきました。正確には「青少年・治安対策本部総合対策部青少年課となります。場所は都庁北棟の35階。
本編は「マンガ論争10」で読んでいただくとして、入りきらない前説を特急で書いておきます。
どうして青少年課の取材に行ったかというと、青少年健全育成条例における「不健全図書」を担当しているからですね。
知っている人は知っているわけですが、そもそも「不健全図書」とはなんぞや?
というあたりから説明した方がいいのかな? わかってる人はぶっ飛ばしてください。
要するに「青少年の育成にとって不健全な影響を与えるかもしれない図書類」のこと。他の地方自治体では「有害図書」という呼び方が多いようです。
このへんからまず誤解している人もいます。
あくまでも青少年にとって「不健全/有害」かもしれないと行政が判断しているだけであって、大人にとって「不健全/有害」な図書、「社会に害毒をまき散らす悪書」というわけではありません。お酒みたいなものです。
お酒は「お酒です」と明記しておかないとイケナイ。図書の場合、「表示図書」に当たります。つまり、黄色い楕円の「成年コミック」「成年雑誌」ですね。このカテゴリの図書は成人コーナーや18禁棚などに区分陳列することになっているので都条例の対象外です。対象になるのは成年マークがついていない、一般図書として売られているもの。おっと、ここで言う「図書」にはDVDなどの電磁記録物やゲームも該当します。
「ジュースの棚に並んでいるけど、アルコールが入ってるかも?」
という図書を都の青少年課が見つけると、購入して、課内で検討して、「これは問題あり」となると、青少年健全育成審議会に「諮問」します。審議会の委員達がそれを受けて、「やはり問題だ」となった場合、「不健全指定」となります。
で、指定を受けると「指定図書」というカテゴリになっちゃうわけです。行政から「18歳未満の人は買えませんよ。お店の人は売ってはいけませんよ」という告知が公開され、さらに出版社にも通告が届く。
東京都条例に限らず、この図書に対する規制については、
「事実上の事後検閲による発禁処分であり、憲法に違反するのでは?」
という意見もありますが、行政サイドは表現規制ではなく流通規制であるという立場。残念ながら、指定に対する異議申し立ての制度はありません。異議申し立て制度を作るには、条例の改正が必要です。これ以外の選択肢としては指定された側が憲法違反で提訴するという方法が挙げられます。実際に『電脳学園Ver2.0』が宮崎県で有害図書指定を受けた時、ガイナックスが憲法違反で提訴した例があります(92年)。残念ながら1999年12月に最高裁判所まで争った末に敗訴しています。
この「青少年にとって、このマンガどうよ?」 の判断は別に科学的なエヴィデンスがあって決めてるわけではなく、あくまでも青少年課の担当者の判断。「そんなの主観じゃないか!」と反発する人もいると思いますが、そもそも「何を不健全とするか」という客観的な尺度は存在しません。東京都の場合は一冊ずつ調べて、判断する「個別指定」です。
これに対し、他の自治体では「包括指定」といって、「全ページの内、何割のエロシーンがあればアウト」という方式を取っているところもあります。そちらの方が一見、客観的尺度のように感じるかもしれませんが、これで「青少年に対する影響」を吟味しうるのか? というと懐疑的になりますね。しかも、エロシーンをカウントするのは結局人間です。その意味では純粋に客観的とも言えないでしょう。
■月に150冊をチェック
青少年課では毎月平均150冊の候補となる図書を購入し、チェックしています。『マンガ論争勃発2007-2008』の取材では月100冊程度、けっこう増えてますね。今回の取材で「へええ!」と思ったのは、不健全図書担当が専任ではなく、課員のみなさんが手分けしてやっているという事実。他にも仕事があるのに、大変ですよ。しかも東京都下の書店やコンビニをなるべく偏りなく廻らなければならない。アキバのマンガ専門店に行って揃えるというような簡単な話ではない。
集めた150冊を青少年課の中でさらにチェックし、「これはアカンでしょ」という不健全図書候補を選び出します。その上で今度は青少年課の幹部職員がチェックします。この課程で、青少年健全育成審議会に回される図書が決定。この「諮問図書」が多い月で3〜4冊。少ない月で1冊です。
それでもまだ指定が決定したわけではありません。審議会で諮問して、ようやく決定するわけですが、その前に「自主規制団体」の聞き取り調査が行われます。自主規制団体とは「漫倫」みたいな団体ではなくって、雑誌協会などの出版団体、出版倫理団体、流通業界の団体からそれぞれ代表者が出て、月一回の調査に参加する。それを総称して自主規制団体と呼んでいるわけです。業界代表ですから、諮問図書に対して異論が出ることもあります。てゆーか、満場一致で「指定該当」「指定やむなし」になることの方が珍しい。でも大抵は「指定該当/やむなし」が過半数を占めます。ただ時々、「保留」「該当せず」という意見の方が優勢の場合もあります。例えば最近だと『甘い鞭・1』が諮問図書とされたことに対して、かなり激しい反論が行われています。ただ、聞き取り調査は、審議会に業界側の意見を伝えるためのもので、青少年課の判断がそれで覆るようなことはありません(過去に一度くらいあったらしいですが)。裁判にたとえれば、弁護側の意見みたいなもんですね。
審議会では、委員が諮問図書に目を通し、最終的に「指定」します。
さすがに、審議会にまで上がってきた図書は厳しい競争を勝ち抜いてきた猛者なので、ほとんどの場合、全員一致で「指定」となりますが、気になるのは、議論がほとんど行われないこと。漫画家の生活がかかっているんだから、指定するならするで、忌憚のない意見を交わして欲しいと思います。
ただ、これを青少年課に言っても(言いましたけど)筋違いだし、東京都の方から委員に「もっと活発なご意見を」とは言いにくいわけです。
ちなみに、『甘い鞭・1』に関しては委員の側からも「保留」が二名出ました。
青少年条例改正から丸2年、施行から1年3ヶ月、条例によって何が変わったのか? 変わらなかったのか?
審議会の議事録では見えない部分、予算、新基準での指定がないのは何故か?
などなど、そのへんのお話は、「マンガ論争10」にて、もっと整理して書きますので乞うご期待。