マンガ論争10取材報告:落合洋司弁護士講演会「特定秘密保護法案の刑事手続上の論点」

落合洋司弁護士

落合洋司弁護士

■強行採決直前の特定秘密保護法案
 12月2日、参議院議員会館で開催された、うぐいすリボン主催の落合洋司弁護士(元検事、東海大学特任教授)講演会に行ってきました。
 マンガ系ミニコミ誌である小誌とは直接的には関係ない法案のように思われるかもしれませんが、表現の自由ともかかわってくる重要な法案です。
 直接的にはマンガによるルポールタージュ、ドキュメンタリーといったマンガと報道が重なる部分だけではなく、解釈次第ではフィクションも煽動・教唆の罪に問われるかもしれません。過度の自主規制という萎縮効果も起こるでしょう。
 成立したからといって、すぐさま新聞記者が逮捕されるとかは起こらないでしょう。
 為政者に都合のいい法律は、すぐに使う必要がなくても作っておけば後々便利ですからね。
 児童ポルノの単純所持禁止と性的目的所持処罰化にしたって、以前の講演で落合弁護士もおっしゃってましたが(「マンガ論争9」参照)、先々、入口捜査に使える便利なツールなわけですよ。
 今回の落合弁護士の講演については、すでにネットでも話題になっているので、ここでは、簡単に感想を述べておきます。
 講演のテーマは刑事手続上の論点です。
 つまり特定秘密保護法案絶対反対という立ち位置でありません。そうではなく「刑事手続上、多くの問題が含まれているよね」という話。
 筆者は法案自体はあってもいいと考えてます。
 国防上、外交上、すぐには公開できない国家機密があるってことは理解していまし、そのための法整備に文句をつけるつもりはありません。
 ただ、そのためには、時間をかけて法案を妥当性の高いものにしていく必要があります。
 為政者にとって便利なだけじゃ、単なるワガママ。
 公安畑の経験者である落合弁護士が、法案が想定する犯罪行為が「公安事件」として扱われるであろうことを指摘し、公安事件捜査の特質として、
「犯罪があるから捜査する」
 だけではなく、
「捜査すべき組織や人がいるから捜査する」
「捜査することに意味、意義がある」
「捜査により組織や人に打撃を与える」
 を挙げるのがなんともリアル。
 要するにピザ屋のチラシをポスティングしても事件にならないが、政治ビラだと立件するという話です。
 ここでは建造物侵入罪が特定の政治集団への便利なツールに使われたわけですね。別に裁判で有罪になろうが無罪になろうがかまわない。立件してしまえば、一定期間、特定の政治集団の人的、時間的リソースを削ぐことができます。
 そうした実例を踏まえている分、落合弁護士の
「公安捜査経験者であれば、捜査権を発動しやすいという印象」
 という意見はリアリティがあります。てゆーか、ありすぎです。
 さらにリアルなのは、行政機関の内部抗争に利用されるおそれがあるという指摘。特定の情報をマスメディアにリークして内部抗争を有利に進めるというこれまでありがちだった裏技に「リークしたのは誰それだ」と警察にタレ込むカウンターが可能になりそうですね。それどころか自作自演で証拠を捏造して、競争相手を罠にはめるなんてことも起こりそうです。ライバルが有罪になる必要はありません。警察に調べられたというだけで経歴にキズがつくし、場合によっては失脚します。
 この他、共謀、教唆、煽動まで広く網をかけているので責任のある立場の人はうっかり物が言えなくなる。冤罪の危険性もある。
 報道関係者も「報道の自由」で免罪されません。ニースソースの秘密を守るというジャーナリストの鉄則も、この法律の前では守りきれないでしょう。
 しかし、元公安の検事に、「反対していない報道機関はわかっているのか?」と嘆息させる報道の現実って一体?
 反対している報道機関も多いとはいえ、彼らがこれまでどこまで「国民の知る権利」を担保してくれていたのかな? という疑問があります。
 マスメディアの本質が問われるのはむしろ法案成立後ですね。

■落合弁護士講演会関連記事まとめ
国家機密と刑事訴訟 特定秘密保護法案の刑事手続上の論点
 落合弁護士本人のブログエントリーなので、ソースそのもの。
落合弁護士による「特定秘密保護法案の刑事手続上の論点」 
 ジャーナリスト江川紹子さんの記事。講演の要約なので、超参考になりますよ。


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