永山です。
12月5日「マンガ論争10」のほぼ最後の取材は第17回文化庁メディア芸術祭の受賞発表。
発表と同時に速報が出て、結果は伝わっていると思いますが、どんな感じだったかお伝えしようと思います。
この賞は、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの四部門で公募し、それぞれの優れた作品に賞を贈って、顕彰するものです。公募方式なので、応募しないと賞の対象にはなりません。映画祭的な方式ですね。
では今回の大賞受賞作品はどうだったかというと……。
第17回文化庁メディア芸術大賞受賞作品 | |||
部 門 | 作 品 名 | 作 者 | 備 考 |
アート部門 |
crt mgn |
Carsten NICOLAI (ドイツ) |
メディアインスタレーション |
エンターテインメント部門 |
Sound of Honda / Ayrton Senna 1989 |
菅野薫/保持壮太郎/大来優/キリーロバ・ナージャ/米澤香子/関根光才/澤井妙治/真鍋大度 (日本/ロシア) |
映像 ウェブサイト メディアインスタレーション サウンド |
アニメーション部門 |
はちみつ色のユン |
ユン(JUNG) ローラン・ボアロー(Laurent BOILEAU) (ベルギー/フランス) |
ドキュメンタリーアニメーション |
マンガ部門 |
ジョジョリオン ―ジョジョの奇妙な冒険 Part8― |
荒木飛呂彦 (日本) |
『ウルトラジャンプ』連載 |
まず「マンガ論争」的に注目は当然ながらマンガ部門。昨年はバンドデシネ『闇の国々』という「意外性」がありましたが、今回は荒木飛呂彦さんの『ジョジョリオン』ということでちょっとビックリ。
「なんで今更?」「なんで今頃?」という「意外性」。
贈賞理由は公式サイトに「マンガ論争」でもおなじみの伊藤剛さん(東京工芸大学准教授)が書いてらっしゃるので、参照してください。
昔からよく言いますが「賞が作者に名誉を授けるのではなく、作者が賞に名誉を与える」という意味でも、いい結果だと思います。
「審査委員主査という立場で出ておりますが、一番歳が上ということで、そういう形になっているにすぎないので、その分、若い審査委員たちの方がよほど優秀であり、数多く読まれている。それを吸収させていただいてまいりました。毎年毎年どんどんどんどん作品が増えまして、銀座の文化庁さんに無理をお願いして、三日あまり通わせてもらって、なんとか100の作品を把握することができました。100と言いましても1作品が10巻以上というのが珍しくないわけで、普段はなかなか読み切れない。それに加えまして、もうどんどん紙マンガではない作品が増えてきている。3年前はほとんどなかったのに今や紙と張り合うくらい増えております。中にはアニメとボーダーの作品もある。
ジャンルも増えました。昔は部活でいえば野球しかなかったのが、今は地味な部活でもマンガがある。しかし、どのジャンルでも最初は苦手だったのが得意になる、ライバルが出てくる、海外へ行く。その意味では『巨人の星』の枠から抜け出ていないのが多い。そういう意味で、ひと味違うというか新しい方向を目指した、別方向へのアプローチの作品を見つけたい。できれば、マンガでなければ表現できないものに重きを置きたいと思いました。審査員というものは、どのジャンルでもそうなんですけれども、普段、日の当たらないところでコツコツ描いているような作品に光を当てたいというサガがあり、こうした芸術祭は有名どころの作家さんには狭き門であります。しかし、そういうところをねじ伏せても、これは顕彰せねばなるまいというものも沢山ございました。功労賞も思いつきのような年功序列的なものではなく、順番待ちではなく、現在、功労真っ最中の人を選びたいという思いもございました」
受賞作品発表があり、荒木飛呂彦さんが登壇。
「漫画家の荒木飛呂彦です。本日は文化庁メディア芸術祭マンガ部門の大賞をいただきまして、ありがとうございます。審査員の先生方、お疲れさまでした。このジョジョリオンというのは、私のジョジョの奇妙な冒険という作品があるんですけど、それしかないんですけど(笑)。1987年から執筆させていただいている作品で、それの第8部に当たります。26、7年くらい描かせていただいている作品で、個人的に申しますと、色々あったなあと。今、大変嬉しく思っております。この作品が、直接的でなくても、世の中の皆様のお役に立てるような作品になってくれたら幸せかと思います。これからも読者のみなさまに読んで楽しんでいただけるような作品を描いていけるよう努力したいと思います」
荒木先生が着席し、みなもと先生がコメントを述べられます。
「おめでとうございます。荒木先生の最初の作品、『魔少年ビーティ』から読ませていただいております。不思議な作風の人が出てきたなと。ジョジョは地域限定作品でありながら、とてつもなくインターナショナルな人気を勝ち得ている。私にとっては荒木さんという作家は、他の人気漫画が、大体、必殺技で、話が進んで行くんですけど、頭脳戦を描く。そのへん面白く読ませていただきました。奇抜なデッサンに『この作家は目は大丈夫かしら』と思ったこともあったんですけど、そのポーズがジョジョになって、どんどんどん活きてきた。私、勘違いなことを言うかもしれませんが、谷岡ヤスジさんの遺してくれた『オラオラオラ!』を今一度、劇画のド迫力の中に、突っ込んでくれたことを非常に感謝しております。ありがとうございました」
続いて、優秀賞の発表が行われました。
雲田はるこ『昭和元禄落語心中』
石黒正数『それでも町は廻っている』
望月ミネタロウ(山本周五郎原作)『ちいさこべえ』
九井諒子『ひきだしにテラリウム』
個人的には『それ町』の受賞が嬉しいですね。続いて新人賞。
今井哲也『アリスと蔵六』
バスティアン・ヴィヴェス(原正人訳)『塩素の味』
町田洋『夏休みの町』
知り合いの新聞記者と二人で「今井さんが『新人』?」と首をかしげました。「新人」の基準ってどうなんでしょうか?
町田さんの作品は竹熊健太郎さんのウェブマガジン『電脳マヴォ』掲載作品です。これも嬉しい。
また、功労賞には、マンガ界からコミティアの中村公彦さんが選ばれて、これまた嬉しい驚きでした。
会場での発表は行われませんでしたが。賞とは別に審査委員会推薦作品も選ばれています。このラインナップが、ホントにスゴイ。マンガ好きならばブックガイドとして活用できますね、間違いなく。ただ、マンガ好きとしては「なんで○○が推薦作品なのだ! せめて優秀賞作品に選ぶべきでしょう!」とか「どうして○○が推薦作品にも入っていないのか?」とか、突っ込みたくなるとは思います。筆者だって一言言いたいですよ。でも、それはもう、賞というものの宿命ですので、文句いいっこなしです。
■大賞受賞作品
■優秀賞受賞作品
■新人賞受賞作品
町田洋『夏休みの町』
参考作品:受賞作品ではありませんが町田洋さんの単行本も是非。