Jコミが「絶版マンガ図書館」へとエヴォルーション! 記者会見と漫画家シンポジウムをまったりアフターレポートしてみましょう

当日の配布資料。ふくやまけいこさんの『ファンテール』オンデマンドがうれしい

当日の配布資料。ふくやまけいこさんの『ファンテール』オンデマンドがうれしい

■記者会見会場は地上47階
 7月11日から、Jコミが、絶版マンガ図書館へと進化したってことは、すでにコミックナタリーさんとかハフィントンポストさんとかダ・ビンチさんとか朝日新聞さんとかが報じておられるので、要点はそれぞれの記事を読んでいただくのが手っ取り早いです。ブロガーさんたちもきてらしてたことだしね。
 とはいえ、マンガ論争取材チームも記者会見に行きました。チームといっても今回は永山のみの参加。佐藤副編は別件の極秘任務でとある地方に潜入中だ(ちょっと盛りました)。詳細は「マンガ論争11」でお読みいただくとして、こちらではまったりとアフターレポートしてみましょうか。
 会場は新宿副都心。住友三角ビルの47階会議室です。
 隣が都庁。
「都庁に対抗しての場所設定ですか?」
 と知り合いのブロガーが穿ちすぎなこと言ってました。もうちょっと広い場所の方が良かったなあというのも開場と同時に満員御礼状態で立ち見まで出たという盛況ぶり。
前半の記者会見は赤松健さんによるプレゼン

前半の記者会見は赤松健さんによるプレゼン

 さて、記者会見が始まりました。どうしてカジュアルな「Jコミ」という名称から「絶版マンガ図書館」にチェンジしたのか? というのが誰しもが首を傾げるところでしょう。ひとつには「Jコミ」だと「ジャンプコミックス」の略称だと勘違いされやすいという弊害がありました。赤松さんはマガジンなんだけど、社長が誰だか知らないとジャンプ系のサイトだと思い込んむというのも無理からぬ話。音的には「J-com」ともまぎらわしい。
 さらにJコミの読者層はどちらかといえばマニア寄りです。これを一般層にまで拡大するには名称だけで理解できるかどうかがポイント。そこで、そのものズバリな名称にリニューアルというわけですね。ただ、「絶版」は漫画家的には不吉な言葉で、赤松さんもそこが悩みどころのひとつだった模様です。
 記者会見では、他の媒体での既報のように、Jコミの試みがなんであって、どんな実績があってというJコミのユーザーなら大体わかってることのプレゼンがありました。記者会見後、他の記者と話したら、
「いつもの話でしたね。新味に乏しい」
 との反応。いや、それはあなたがウォッチしてるからですよ。確かに、広告つけて絶版マンガを無料公開しているとか、漫画家とファンを結ぶ「JコミFANディング」とか、漫画家とアシスタントのマッチングとか、個々の活動については知っていました。ただ、こうやって赤松健さんのプレゼンで改めてまとめられると、トータルで、
「漫画界全体への支援、応援」
 という枠組みが見えてきます。
 赤松健さんの面白いところは、例えば海明寺裕さんが倒れた時のファンドでも、あくまでもファンによる支援。ファンが支え、海明寺裕さんが作品のPDFでそれに応える。一方的な募金集めじゃないんですね。俺はこれってすごいことだと思います。だって、赤松さんがポンとお金出せるわけですから。でもそれは敢えてやらない。あくまでもセッティングに徹する。
 Jコミの最近の試みで面白いのは「Jコミで印刷できるってよHD」。
 これは未単行本化作品をオンデマンドで本にしようという企画です。その現物として報道陣に、ふくやまけいこさんの『ファンテール』が配布されました。同書の販売価格は表紙マット加工が1,320円、加工なしが1,160円。作者印税50%、印刷費用50%となっています。
「他のオンデマンド出版なら800円で出せると思いますが、ふくやまさんの本は、原稿からじゃなく雑誌からのスキャン起こしですよね。ここまで細かく手を入れたらこの価格になるんでしょうね。印刷費50%ではほとんど儲けが出ない」
 という指摘がありましたが、恐ろしいことにJコミの手数料は0%! 儲け考えてませんね。
 ちなみに赤松さんのプレゼンによると、一番喜んでるのは作者で、ファンよりも、まず作者が買うそうです。
「これ、単行本になってなかったから、本になって嬉しい」
 親戚や知人に配るためにまとめ買いするんだとか。
 儲け度外視のビジネスはリッチな赤松さんだからできることで、簡単にはマネできません。素晴らしいことだとは思いますが、赤松さんがプアになったら続かないわけで、そこのところが、ずっと前に赤松さんにインタビューした時から気になっているところ。その時、赤松さんは、
「ネットビジネスは2年3年ではプラスにならないですよ」
 とおっしゃってましたが……。プレゼンの「広告収益モデルって儲かるの?」というくだりも、Jコミが「儲かる」んじゃなくて、あくまでも作家が儲かるかって話。で、大事なアドバイスがありました。

出版社(orストア)からの電子書籍の売り上げが、年1000円を切っているタイトルは、Jコミに入れた方が効率は良い。(Jコミなら初月でクリアしてしまうことが多いから。)年に1万円以上儲かっているタイトルは、有料のまま置いておくと良い。

■絶版マンガ図書館がめざすもの

海賊版撃滅!

海賊版撃滅!


 絶版マンガ図書館が目指していることは一体なんでしょうか?
 赤松さんの構想は実に壮大です。

1)古今東西の全てのマンガ(ただし出版社がもう扱っていないもの)を収集し、「日本のマンガ文化の100%保存」の一翼を担う。
2)絶版マンガの海賊版を、完全に撃滅する。

 このふたつが実現できれば、いや、それに向かって10年持続的に運営されれば、文化庁メディア芸術祭功労賞モノです。
 では、どうすれば目標を達成できるのでしょうか?
 これについて書き始めると全然終わらないので、要旨だけ書きます。
 まず、絶版マンガがアーカイブ化されれば、海賊版や違法アップロードは必然的に減少します。心ならずも違法ダウンロードしているユーザーの言い分として、
「だって絶版で売ってないしぃ」
 というのがあるわけですから。残念ながら新刊の海賊&違法アップロードには対応しきれませんが、実際にその手のサイトに上がっているリストを見ると絶版の名作が大量に上がっています。
 赤松さんの構想で面白いのは、そうやってネットで「拾ってしまった絶版漫画」を「資料」として投稿してもらおうという。電子書籍版の『YouTube』的な構想。投稿された「資料」を審査して、絶版でなければ削除、判断できない場合はランダムな5Pを公開し。作者からの連絡を待ち、連絡がくれば協力を依頼し、公開OKならばこれまでのように広告付きで全ページ無料公開。NGなら漫画版Wikipediaとして活用。
 非合法な「資料」が合法的なコンテンツに変身するわけです。この発想は前にも聞いてたんですが、それを大々的に展開しようということです。著作権者の意志を最大限尊重すれば、法的に問題はないと思います。

問題発言がないように自ら法務担当を呼ぶ赤松さん

問題発言がないように自ら法務担当を呼ぶ赤松さん


 これに関してはまだまだ書きたいことがあるけど書ききれないので続きは『マンガ論争11』にて。漫画の全文検索&機械翻訳とか興味深いことが一杯ありました。
 おっと、株式会社JコミとSBイノベンチャー株式会社(ソフトバンクグループ)との提携が当日発表されました。これはJコミがSBイノベンチャーの電子コミックアプリ「ハートコミックス」に絶版コミックスを提供する形になります。ちなみにベータ版はすべて無料。今秋よりのスタートです。
SBイノベンチャーの電子コミックアプリとの提携について発表する赤松さん

SBイノベンチャーの電子コミックアプリとの提携について発表する赤松さん


■リアルな話炸裂の漫画家
 第二部は「漫画家4名による電子書籍シンポジウム」。登壇者は赤松健さん、うめ(小沢高広)さん、松山せいじさん、八神健さん。今、ぐぐってみたらどこもニュースにしてない! ブロガーも誰も書いていない!
 一応、良識の範囲内で記事化することはオッケーということなんですが、みなさんどうしちゃったんですか?
 ウチは報道しますよ!
 と言っても、電子書籍シンポなのに、原稿料とか「具体的な数字はNG」な話題、編集部と漫画家の内情などのぶっちゃけトークが炸裂しておりまして、記事化は大変難しい。
左奥から赤松健さん、うめさん、八神健さん、松山せいじさん

左奥から赤松健さん、うめさん、八神健さん、松山せいじさん


 筆者も昔、秋田書店の『週刊少年チャンピオン』で連載(原作)を持っていたので、週刊連載だとアシスタント5人は必要だよねーとか、そのあたりは意外性はありませんでした。
 面白かったのは「ワンピース」のフキダシが丸くなってるのは、海外版に対応するためだという指摘。これについて、うめ(小沢)さんが、
「フキダシは海外対応のために横長にする必要はなくって、むしろ縦長にした方がいいと思う。横書きの海外版の場合、単語がひとつずつ並ぶようになるけど、上から下へという視線の流れとしてはむしろ自然」
 と言ったのには、おおっ! と驚きました。これは竹熊健太郎さんに教えてあげねば!(永山薫)


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です