『マンガ論争10』掲載記事「仮想物規制を盛り込んだ『アチョン法』の怖さ」一部訂正とお詫びと解説

朴景信教授(2013年9月6日、文京シビックホール)

朴景信教授(2013年9月6日、文京シビックホール)


■訂正とお詫び
『マンガ論争10』に掲載しました、朴景信教授2013年9月6日の来日講演レポート「仮想物規制を盛り込んだ『アチョン法』の怖さ」におきまして、事実誤認のご指摘がありました。確認しましたところ事実誤認を確認しましたので、遅まきながら、訂正とお詫びをさせていただきます。

『マンガ論争10』P51の記述

 この日の講師である朴教授自身が。アチョン法への抗議として「これが児童ポルノか」とイラストを自サイトへ掲載し、実際に訴えられるという経歴の持ち主である。

 これは記者の聞き取りミスによるもので、朴教授が自分のブログに画像を掲載したのは「猥褻物頒布罪」に対する疑問を提起するためでした。アチョン法への抗議ではありません。朴教授は猥褻物頒布罪に問われ、裁判中です。
 訂正し、朴景信教授と読者の皆さんにお詫びします。

■アチョン法改正で何が起きたのか?
 なぜ、朴教授が、自分の例を挙げたか説明しましょう。

 まず、韓国のアチョン法は日本における児童ポルノ禁止法に相当するものです。
 日本との違いは2011年の改正によって、架空のイラスト表現にまで規制の範囲を広げたことです。
 しかも、アチョン法違反は成人女性への強姦罪よりも重罪です。
 成人女性をレイプした場合は最低3年の懲役。
 未成年キャラのエロイラストを描いたら無期懲役または5年以上の懲役刑、20年の身上登録、10年の就業規制。
 2011年の改正前ならば、せいぜい風俗犯扱いで懲役1年だったのが、とんでもない重罪になってしまいます。

 韓国では児童性犯罪は「四大犯罪」のひとつして、検挙すればするほど警察官の人事考査のポイントとして加算されていきます。その結果、児童性犯罪の検挙数は2012年には約22倍に激増。2013年9月までには推定4,000人以上が検挙されています。
 アチョン法で検挙された未成年者を含む数千人の若者たちが有罪判決を受けた場合、彼らの人生はムチャクチャにされてしまいます。最低5年の刑期が明けて出所しても、「幼児性犯罪者」として警察に登録され、10年間は青少年が立ち入る場所への就職を禁止されてしまいます。つまり学校、図書館、遊園地、商店、飲食店の多くはアウトです。青少年が立ち入らない職場でしか働けませんが、性犯罪者の前歴のある人間を雇用する企業はそう多くないでしょう。
 もちろん「たとえ架空の表現であっても児童を守るために規制すべき」と訴えている人々(日本にもいますね)の中には妥当な処罰だと考える人がいるかもしれませんが、筆者は不当であり、過重であると考えます。
 韓国では若者たちや漫画家、イラストレーターを中心に反対の声があがっています。
 しかし、一度改正が成立してしまった法律の再改正は極めてハードルが高くなります。そうそう簡単に法律は変えられません。アチョン法改正に賛成した政治家たちも容易に納得してくれません。現実的な対案を出す必要があります。朴教授によれば捕まった若者たちの中からは、「せめて猥褻罪で罰して欲しい」という声があがっているそうです。それを踏まえ、朴教授は自分は猥褻物陳列罪で刑事訴追されているが、たとえ有罪となっても罰金刑で終わり、職を失うこともないだろうと述べ、

この実際に取り締まられた数千人の人々、それから、法の改悪によってマンガやアニメーションの仕事ができなくなってしまった数多くの若者たちを救うために、今すぐ、法律の改正案を通過させなくてはなりません。そのためには、現実的な対案が必要だと思っています。だから、アチョン法の代わりに猥褻物として取り締まるという対案を出したのです。

(うぐいすリボン『講演会「韓国・児童青少年性保護法(アチョン法)による創作物規制の波紋」』発表資料より。PDFで公開中)

 と説明する。朴教授自身、猥褻物陳列罪で戦っているわけですが、アチョン法→猥褻とグレードダウンすることによって多くの若者が救われるという現実的な判断なのです。さらに、猥褻ならば警察の点数稼ぎにならないため、猥褻での立件も激減することが予想されます。
 韓国と日本では制度も国民感情も違うので一概に比較はできませんが、過度の創作物規制が社会に何をもたらすかを考える上では決して無視すべきではないと思います。(永山薫)

参考リンク
動画:『講演会「韓国・児童青少年性保護法(アチョン法)による創作物規制の波紋」』
マンガ論争Exp.の速報版記事


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